パルメザン・インスタント・競輪
「はぁぁぁあ」
体中から力が抜ける様に息を大きく吐き出した。ため息ってやつだ。
レンジでチンするだけで出来上がるピサをコンビニから買ってきたのはついさっきの事だ。久しぶりに顔を見せた太陽が心地良くて、家にある食材は食べ飽きてしまったのもあって、散歩がてら買い物してきたのだ。
しかし、袋から取り出す前に必要なものが足りないことに気が付いて、大きな後悔をしたところだ。
一緒に買って来ればよかった。
そんなことを言ったってないものはないのだからしょうがないと思いなおし、食べる準備ではなく。もう一度コンビニへ行く準備を始めたのは、おそらく久しぶりに浴びた日差しが思っているよりも気持ちが良かったのと、少しだけ期待が込められているからだ。
そろりそろりと玄関のドアを開ける。アパートの二階の角にあるこの部屋から階段は最も遠いところに位置していて、ほかの住民の前の通らなくてはならない。このタイミングで顔を出すことがあるのだろうかと少し想像して心臓が高まるのが分かった。
今年の新生活で隣に引っ越してきた名前も知らない彼女は会うたびに礼儀正しくぺこりと頭を下げてくれる、最近は見ることのない律儀な人だ。おんなじ大学に通っているのはキャンパスで顔を合わせたこともあるから分かっているがそれだけだ。
なんとかお近づきになれないかと思っているのだが、自分からアプローチをした経験もない人間からしたらどうしていいかわからず、ただ顔を合わせる日々を過ごす。
そいうしていないことを確認して静かに肩を落とすと、買い忘れたパルメザンチーズを買いにコンビニへと足を延ばすのだ。そういえば売ってるのかパルメザンチーズ。と記憶をたどるがそんなところまで注意深く見ておらず、行ってみないと分からにと自分を納得させ玄関を出る。
「あっ。どうも。いいお天気ですね」
先ほどまでいなかったはずの彼女がそこにいて驚きのあまり、手すりまで後ずさってしまう。
「えぇ。あぁ。ようやくのお天気ですもんね。晴れてよかったです」
気の利いた一言も言えないまま彼女はそのまま部屋に入っていってしまった。様子を窺ったりもしたのに彼女の存在に気が付かなかったことに違和感をぬぐい消えれない。
まあでも会話もできたし、いい一日だと思う。足取りも軽くなった気もする。そう階段を降り始めると後ろで扉が開く音がした。
「あの。今日競輪で勝ったので少し余裕が出来たんですが、ご飯でもご一緒にどうでしょう」
よくわからないが、食事に誘われているらしい。口の中はちゃっかりとピザになっているのだが、それでもいいのだろうか。それにしても競輪とは雰囲気に似合わないことが趣味なのだなとぼんやりと思う。
「ピザが良いです」
我ながら図々しいにもほどがあると思いながら誘われたのだしいいかなと思う。
そうしてからデニム生地のズボンがはち切れそうなほど大きくなったふくらはぎを見下ろす。もしかして、競輪部に入ってるの知ってるのか。そう前向きに考えられるのは太陽が久しぶりに見られたからなのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます