画廊・市街地・パンダ
久しぶりに市街地を歩いているとその人の少なさに少しだけ不思議な気分になったりもする。ほとんどの人がマスクをしているのも妙に感じてしまう位には久しぶりのお出かけだ。少しの背徳感と少しの好奇心が胸に抱かれたのはパンダに一目ぼれしたからだ。
その愛くるしい瞳にずんぐりむっくりしたふわふわの毛に包まれた身体。大きな手開けは少し怖さを感じたけれど、それを全体から漏れ出す安心感で吹き飛ばしてしまうほどのその魅力に一目見た時から囚われたままだ。
SNSで回ってきた画像がきっかけだった。なにげなしに毎日が退屈で、家から出る気にもならずただおうち時間ってやつをぐうたらにむさぼり続けていた時の事だ。何気なく動物。しかもその辺りにいるはずの犬や猫の動画ばかり漁っていたのに、そいつは画面いっぱいに白と黒を表示させてきて。その笹を食べているだけの画像の躍動感に心が跳ねた。これを実際の目で見てみたいと、そう思えた。
それからは久しぶりに外出するための準備に時間を費やす様になった。人通りの少ない時間を調べ、効果が高いとされるマスクを用意し、万全を期して外に出た。
そうしたら、本当に久しぶりだったのか見るものすべてが新鮮に思え、パンダを見たらどうなってしまうのかと思ってしまうほど心は跳ねていた。
向かうは市街地の端っこ。ポツンと存在している不思議な空間。中は吹き抜け。まるで教会みたいな作りの奥に置いてある一枚だけの絵。それが例のパンダだと言われても遠目では気付けない。
画像で見たそれが人が描いたものだと知った時の衝撃は画像を見た時以上だった。あの躍動感は写真ではなく人が描いたからこそなのかとも納得したりもしたけれど。素人にはなにも理解できやしない。ただその、出来栄えを、写真でないことを実際に確認しようと思っただけだ。
だからこの画廊まで足を運ぶことを決意したのだし、実際に目と鼻の先にあるのだと、思うと心が跳ねるのが分かる。
あの時以上のものを与えてくれるのだろうかと言う期待も、実物はそうでもないのかもしれないという不安もある。
でも実際にそこにあるのは人が創り上げたものだ。そう理解してしまったからにはじっくりと見て見なくてはならない。マスクの端から熱い空気が漏れるのが分かった。
心が跳ねているからか。それはもう2、3歩踏み出せばわかるのだろう。そう決意して踏み出した一歩はもうすでに跳ねていた。
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