仮眠・圧力・高飛び

 叫びだしたい感情が高まれば、場所や時間なんて問うている暇もないままに、その振動は喉を震わせ、口から放たれるのだ。だから、叫び終えてから周りの状況に焦りを覚え、うろたえ、後悔したところで、反省したところでそれが制御できるはずはないのだ。

 なぜ叫ぶのかはずっと疑問であるし生きていく上での最重要課題でもある。そいうやって考えて仕舞には大体ストレスのせいだと、そう結論づけて思考は終わる。そうしてから、仕事をやめるだとか、楽にする方法はないものかとか、生きていく理由なんてあるのだろうかとか、この先の未来になにがまっているのだろうかとか、そんな何の解決策にもならないことばかりを考えて結局、疲れてしまえばそんなことは忘れてただ生きていくことに集中してしまう。そうしてから気づかずにたまり続けたものがあふれ出した時に叫ぶのだ。

 同調圧力とまではないが、突然叫ぶなんてことをすれば、周りから奇妙な目で見られ始める。それがさらにストレスを増す原因になっているも事実だったりする。

 それもこうやって見知らぬ人が多い街中で、叫んでしまった時にはどうしよもなくてただ、逃げ出すことしかできない。高飛びして、だれも居ない山の中で暮らそうかなんて考えてしまう。

 そうしてから、どうしてそうしないのかと疑問に思い始める。それに、自分が誰なのか思い出せないことに驚愕する。なぜ、叫ぶなんてことを受け入れているのか、わからなくなる。

 落ち着いて自分の名前を思い出そうとする。分からない。なんの仕事をしているかを思い出そうとする。わからない。幼少期、両親の顔、そこまで思い出そうとして、気付く。あまりにも設定が現実離れしていることに。

 そうして、無理やりに引っ張り出そうとしていたものを受け入れて、高飛びすることを決意した。その瞬間には空港にいて、どこかの海外へ飛び立つ場面に切り替わった。飛行機が飛び立つ。ガタンッ。大きな音がして、体が大きく揺らいだ。

「だ、大丈夫?」

 目を開けると見知った顔がいて少しだけほっとする。仕事の休憩の合間だ。仮眠を取ろうとして、思った以上に眠っていたらしい。

「大丈夫です。夢で落ちただけでして」

 それにしてもおかしな夢だった。思い出そうとしてうまく思い出せないことに気付く。

 まあ、夢だしな。深く気にしてはいけない。深く考えてはいけないのだ。

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