編纂者・原宿・アイスキャンディー
今はないその街は多様な文化に満ち溢れていたと推測される。残っているデータベースから読み取れるものに一貫性が見当たらないからだ。これだけ小さな区域にこれだけ多くの多様性が生まれていることに違和感はぬぐえないがそれは情報がすべてだ。自分の考えを入れ込んではいけない。
その情報だけを厳選した結果、この街は原宿と呼ばれていたらしい。宿が立ち並んだであろうその地名とは違って変わった食べ物の名前が出てくるのはなんだろう。特にタピオカと呼ばれる飲み物についての記述だけではうまくイメージできない。まだクレープやチュロスと呼ばれる食べ物のほうが理解できるし想像もしやすい。
服装も多種多様なものが見受けられ、それらが流行した時系列を記載したデータはどこにもなくその系譜をまとめることは困難を極めている。
そもそもなぜこんな情報のまとめなければならないのかと問われればそれは仕事だからに過ぎず、果ない探究心も無ければ過去の遺産から新たな発見をして有名になりたいなんて気持ちもない。
ふう。とため息がでるがそれを聞いているものはいなく、ひとりで過ごす真っ暗な部屋に灯る端末の光はほんのり周りを照らすだけだ。
情報をうまく整理できないでいる。そこにある情報が多すぎる。この時代の人間はどうやってこれを把握していたというのかと疑問に思ってしまうほどにはこの時代は多様性に満ちている。それほど、生きることが当然な時代だったのかもしれない。今のように地下にこもって地上の情報をまとめてそこにある貴重な資源を求めて生きていくことしか、永らえない命とは違ったのだろうと思う。
先程の情報の中にあったアイスキャンディーは今も残っていてこの部屋からすぐの保冷庫に保存してある。地下の温度は低いところが多く、そういった保管が容易いことと製造法が単純なことから残っていると思われる。
このアイスキャンディーが今の時代に残ったのはたまたまでタピオカももしかしかしたら、このように残った可能性があるのかもしれないと思うと、なんだかやるせない気持ちになる。
それは自分自身にも言えることで、何かの歯車がひとつでも違えば今ここにいないのだと思うと、いい気持ちにはならない。
気合を入れ直して端末に向き合う。せめてそこにあったという事実だけはまとめておきたいと、そう思った。
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