金の亡者・ゴールデンタイム・池袋駅西口

 金の亡者たちはこんな世の中でも常にどうすれば儲かるか、そればかりを考えている。お金を横に動かしながら増やすものもいれば、新しいビジネスに目をつけて広告を打ち出したりなんかもしている。つい先日まで広告を出すものがなくて真っ白な看板に広告募集中の文字と電話番号だけが書いてあったビルの高い部分の大きな看板に真新しい広告が出ているのを見てそう思った。

 社会が弱ると言う事はそこにビジネスのチャンスが転がり始めると言う事だ。これまで手を伸ばせば届いたものに手を出しにくくなる。そうなれば手を出しやすいところに売るものを置いてあげればそれに食いつきは良くなるだろう。理屈ではそれは分かる。でもこうやって、すぐに動いているそれが成功しているのを見ると、なんだか少しいやらしい気がして、ちょっとだけ嫌悪感なんかも浮かんでは消える。

 それが悪いことなんて言うつもりもなく、まっとうな生き方だと思う。それに嫌悪感を抱いているほうが、社会に適応できていない証拠だとも思う。自分を卑下にしたいわけでもないが、とても真似できないそのスピード感にどうしたって違和感はぬぐえない。

 時間はゴールデンタイムだと言うのに街は静かなものだ。その看板広告に目を向ける人も決して多くないとは思う。しかし、それでも地方に比べればとてつもなく大勢の人が行き交っているであろうこの場所に広告を打ち出すのは決して間違いではないのだろう。その証拠にそのサービスを使っている知人を何人か知っている。SNSも活用しているだろうし、これまでなかったサービスの広告は大きいほうがいいに違いない。それにこうやって、たまたま訪れただけの人間の目につくのだから、疑いようもないだろう。

 しかしちょっと前までこんな駅前でこうやって広告をぼんやりと見上げようものなら邪魔者扱いされたものだったが、今やそんな気配もない。人が密集していないと言う事はこんなにも自由であると感じると同時に、あれだけいた人はどこへ消えてしまったのかと不安にもなる。

 突然、人が大勢消えてしまったような感覚は気持ちのいい物ではない。それが副都心として発展してきた池袋駅の西口ならばなおのことだ。

 こんなことがあるなんて思ってもみなかった。まるでゾンビ映画の演出の様に静けさだけが漂う街が不気味に思えた。

 人々の余裕が消えていくのが手に取るようにわかるのが、不安でしょうがなかった。

 未来という希望にあふれた言葉がこんなにも陳腐に聞こえる日が来るなんて思わなくて、それを信じられた自分の人生がどれほどまでに幸福だったのかを知った。

 そんな中でも金の亡者が頑張っているのをみて、人間はこれからも元気に生き続けることに気付いた。

 だから今日も今日とて、仕事に励むのだ。

『迎撃対象が池袋西口公園に間もなく着地します。任務開始のカウントダウンを開始します』

 唐突に機械音声からの作戦の開始を告げるアナウンスが入る。それと同時に始まる10から徐々に減り出すカウントに手に握った銃器の重さが一緒に増していく気がする。全部緊張のせいだ。

 外宇宙からやってきた侵略者は大型兵器を持たず、歩兵戦を挑んでくる変わった侵略者だった。まるでゲームを楽しんでいるようだと誰かが言ったのが印象的で、それ以来そうなのかもしれないと思いながら戦っている。

 仕事はその侵略者たちの迎撃だ。今は生きがいでもある。広告にでかでかと宣伝されている新型の銃器の性能を今日は試す日だ。

「やってやるぜ!」

 だれかが気合を入れたみたいだ。負けじとこちらも手に力が入る。

『侵略者が着地しました。皆さまご武運を』

 今日も今日とて人間は元気に生きている。それだけは確かだった。

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