アーメン・統計学・図鑑
アーメン。その言葉が教会全体に響き渡る。別に集会を行っているわけでもなく、熱心な信者であるわけでもないが、ここにいるとどうしてだか落ち着いてしまうので、暇を見つけてはよくここに来てしまう。
最初の頃は戸惑ったり、挙動不審だったりもしたのだが、神父様と話をして、フランクにいつでもきていいですよ。なんて言われた以来遠慮なくこうやって訪れてはみんなが祈りを捧げているのをぼんやりとただただ見ているだけだ。
日本ではない領地で生活するのはいつまでたっても慣れやしなくて、家にいても隣からの生活音が気になって落ち着けやしない。外の騒がしさにも、主に言語が理解できないのが原因で落ち着けない。
それも全部、社長がなにかにおいては統計学によればと言うインチキプランナーの言うことを全部真に受けたからだ。日本の飲食チェーンならこの国であれば利益がちゃんと出て日本での利益をまかなえるくらいになります。なんてそんなうまい話があるわけもない。そもそも日本での展開すら順調の一言で済ませることができないのだ。
来たばかりの頃は見たことのない虫に悩まされたりもして、思わず図鑑なんかを電子書籍で買ってしらべたりなんかもした。それも全部自分の平常心を保つための手段だったのだと気づいたのはこの教会を訪れてからだ。
自分自身の不甲斐なさが故に異国の地へ飛ばされたのだと思っていた自分にとって、ここでの生活は思っている以上に自分に悪影響を与えていたらしく、夜も眠れず、仕事も身が入らず、慣れない人たちのコミュニケーションに苦しんだりしていた。
決して救いを見出したわけではないのだが、教会を見つけたときに少しだけホッとしたのは確かだ。
こうやって言葉のわからない祈りを聞いているだけで心は落ち着いていく。神父様が日本語を話すことができたのも朗報だった。久しぶりに聞いた日本語に涙しそうになったのを今も覚えている。
それも今日で最後だ。日本へ帰ってこいと社長に言われたのは、決してここの売上が悪かったわけではない。逆だ。社長が思っている以上に売上をだした。そのノウハウを社員に教えてほしいのだという。心が挫けそうになって、しんどさのあまりいやいやしていたことが、称賛されるなんて思っていなかったが、この教会のおかげで腐らずにこれたのは間違いない。
「アーメン」
この時初めてみなに合わせてその言葉を発してみた。意味は知らない。ただお礼を言いたかっただけだ。
次に訪れたときにはもっとちゃんと祈りを捧げようと誓いながらその場をあとにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます