コンセプト・5階・金塊

 何をどこで、どう間違えればこういう結末が待っていたというのであるろうか。そう考えたところでもう遅いのは間違いないし窓から見下ろす風景に違いなんて見いだせない。

 8階だてのビルの5階に借りた事務所兼店舗の中はすでにすっからかんだ。事業に失敗したと後ろ指を指されるのもなれてしまうくらいには遠い昔のことのように感じる。

 周りに問い詰めれば答えてはくれるだろうけれど言われることはひとつだ。コンセプトがはっきりしていない。なにを売りたいのかが見えてこない。つまりはなにを買っていいのかもわからない。そう集約していくだけだ。

 つまりただの自分の趣味の品を集めただけのお店では話にならなかったのだろうということだけはわかった。

 資金も気力も尽きてしまった。残っているのはこの場所の契約期間と支払い残高と多額の借金だけ。

 眼下を見下ろす。人は歩いていないとおりだ。歩道もあるが車道は片側1車線の平凡な道路。突起物もなければ景観のための木々も生えてはいない。5階という高さは中途半端な高さななのか。痛いにしても短めがいいのだがと少しだけわがままを言ってみたりする。

 本当は死んでも迷惑のかからない場所まで行こうと思っていたのだが、どうやらそれを許してくれない連中が張り付いているらしく、今もビルから出てくるのもしっかりと見張っている。まあ、しっかり払ってくれないと困るといったところだろう。

 まあ、ここからなら多分死ねるかなと、ふらりと立ち寄ったのだ。事務所の片付けをしているだけだと思ってくれているうちにということなのだが、どうしても踏ん切りがつかなくてこうやって下を眺めては想像することしかできていない。

 昔見た漫画にこんな事務所の天井に金塊が隠されていて、人生大逆転みたいなものを読んだことがあったが、上を見上げてもむき出しの柱やダクトが見えるだけの天井が見えるだけ、そこに金色にきらめくものはちっともない。

 やはり、手段はひとつだけなのかもしれない。痛いだろうがおそらく一瞬だ。

 生まれ変わるなんて信じてはないし、こんな終わり方をした人間を生まれ変わらせてくれるはずもないだろう。

 もういい。疲れた。重力に身を任せて窓のヘリに腰を当てる。頭から引っ張られるように空へと飛び出した。

 そうしてからやっぱりやめておけばよかったのだと後悔するのだ。

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