行燈・一輪挿し・ギャンブラー
もとは蝋燭の火が消えないよための風よけだった
露天風呂を楽しみにしていたはずなのだが、どうしてもその場から離れることが出来ず、その明かりをぼんやりと見続けている。
仕事の合間に、格安で旅館に泊まることが出来るとあって、久しぶりの旅行に来た。息抜きしないと息が詰まりそうな生活に嫌気がさしてきたのもある。外出が制限される今、お金を使う先も限られているのもひとつの理由だったりする。
しかし、こうやってのんびりして初めて自分が思っているより疲れていることを実感して、少し落ち込む。表面に出していなかったのは無意識だったらしく、周りの悩みを聞いてはそんなに気にすることないんじゃない。と言ってきた自分がまさか。な気分である。
行燈の隣にはガーベラが一輪挿しされており、そのふんわりな明かりを受け止めて、暖かい色に染まっている。そういうのを見て癒されている自分を、新しい自分だと受け入れられるほど、心に余裕はないことに驚きもする。こんな自分は自分ではないと言う気持ちが強く、こんなんではいけないと言う気持ちが頭の中を占める。
旅行に来たのは間違いだったのかもしれないと思い始める。息抜きをしないでも生きていけることはできたはずだ、暗すぎて歩きにくく、重すぎて自由が効かない人生だったろうけれど、こんな自分を知らずに済んだ。
完璧主義者であるつもりはない。適度に力を抜くのは良いことだとは思う。しかし、こやって自分が弱っている事実を知ることはしたくなかった。強くなければならない。そんな気持ちが奥底にあったのを気付くこともなかった。
それは父の口癖だった。
今思えば時代錯誤もいいところだ。男は強くなければならない。そんなことを何かあるたびに口にしていた父の事が正直苦手だったし、そんな父がギャンブラーであり、仕事とギャンブル以外のことに興味がなさそうだったのも、より一層その溝を深くしていた。だから家を出てから何かと理由を付けて帰らないでいたりもする。
そんな父の言葉が自分の中に染み込んでいるのを気付いてしまってどうしていいかわからなくなる。
自分に余裕があれば、もっと経験を積めば、もっと大人になれば違うのか。それはだれも教えてくれはしない。
とりあえず露天風呂で頭を冷やさなくてはならないと、その場を去る。行燈から漏れる光は優しく包んでくれいてる。それがどうしようもなく、自分自身を分からなくさせる。
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