第三の目・アノマロカリス・セブンティーン

 それは奇妙な光景だった。いや、奇妙と言うのは正しい表現ではないのかもしれない。古代の海ではよく見られた光景のはずだ。時代が変わったからそれが奇妙と言うのは今を生きている者にとっての傲慢のような気がした。

 新設された水族館で見かけた、新しいアトラクションに心を奪われた時、一緒に来ていた友人たちを振り切る覚悟をした。どうあがいても置いてきぼりにする自身が生まれてしまったのだ。仕方のない。

 セブンティーンの思春期にしては思い切った行動をしたものだと自分でも思う。これまで築き上げたものが崩れ去る音がした気がした。それほど薄い関係だったのならばいつか崩れたのではと言われても反論は出来ない。しかし、その関係も今はとても大事なものだ。それを自ら手放した。それほどまでにそのアトラクションは魅力的で暴力的だった。

 昔から古いものにあこがれを抱く、くせみたいなものがあった。図鑑とかを読み漁っては昔生きていた生物たちの想像を膨らませてはその世界に入り浸っていた。

 そして、見つけてしまったのだ。そのアトラクションはVR技術を使った物だ。古代の海を再現したバーチャル空間でVRゴーグルをつけてるとその海の中にあたかもいるような体験ができると、そう言われて付けてしまったが最後。あまりの情報量に脳がパンクした。それと同時にすべてを理解したい欲求に駆られてた。

 アノマロカリスにピカイア、カナダスピス、ハルキゲニア、それらが実際に動いている光景は奇妙しか表現できないものだった。もっと知りたい。ここにずっといたい。そう言った感情が抑えられない。

「おい。そろそろ閉館時間だってよ」

 急に現実に引き戻される。ゴーグルを外されたのだ。先ほどまで目の前にあった神秘的な世界が消えてしまったような気がして気持ちが落ちる。外したのは振り切ったはずの友人たちだった。閉館時間だと言った。あれからかなりの時間が経過しているはずだ。それなのになぜ彼らはまだここにいるのだろう。

「いや、だって楽しそうだったし。見てるだけで暇はつぶせたしな」

 それはどういう意味だろう。何を見ていたの言うのだ、水族館の中には展示が多いし、それらを見ていたら時間が過ぎたということなのか。

「ま、いいじゃん。飯食って帰ろうぜ」

 そう言って出口へと向かう皆へ付いていく。名残惜しい気持ちが強いが時間であらばしょうがない。もう少しでVRで再現できていない生物も見えてくるような気がしたんだけどなと、つい呟いたら。

「第三の目開眼ってか。それかっこいいな」

 そうみんなが笑った。バカにされているわけではなさそうだ。だったら本気で言っているのか。だとしたら彼らにも見せてあげたいと思った。その第三の目で見えている世界を。

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