新種・ペルシャ・寄付
ペルシャと聞いて思い浮かべるのは猫か絨毯だった。だから目の前のものがペルシャ原産と聞いてもピンとこない。向こうもそう思っているはずはないのだが、きょとんとした顔をしているように見えるのは気のせいだろうか。
差し出された犬をペルシャ産と言われてもペルシャ犬なんて聞いたとこもないし、検索してもそんな言葉は出て来やしなかった。とはいえ寄付された犬だ。大切に扱わないといけない。
とりあえず、日本の犬っぽい顔立ちをしているのは気のせいではないと思う。犬種に詳しいわけではないけれど、柴犬や秋田犬みたいな顔立ちをしていて優しそうな雰囲気の漂っている中型の犬だ。
担当していた施設に送られてきたこの犬はこれから子どもたちと生活してもらい、生きてもらうことになる。そうなる人生を理解してかしないでか、その表情を変えることなく不思議そうにこちらを見上げている。なぜじっと見つめられているのか分からないでいるように思えた。
「ねえ。このワンちゃん新種なの?」
唐突に声を出す園長に犬どころか寄付してくださった、ペルシャ人と名乗る男も驚いていた。
犬に新種が見つかるわけないじゃないですか。とツッコミを入れたいのをグッと抑える。園長の機嫌を損なうわけにはいかない。
「シンシュ?」
ペルシャ人は首をかしげている。日本語の意味が分からなかったようだ。
「新しい犬ってこと」
それじゃあ、違う意味に聞こえるのではと、思ったけれどこれもまた黙っておく。
「オー。新しいよ。オニューね」
ほんとかよ。そう呟きそうになって、開きそうになった口を無理やり閉じた。あやうく舌を噛みそうになってヒヤッとする。それを見ていた犬の不思議そうな目がかわいくてしかたなく思えてくる。
「それは貴重な犬をありがとうございます。身の回りの世話は任せましたよ」
園長はそう言うとペルシャ人とどこかへ行ってしまう。奥で、難しい話に入ったのだろう。こちらには当面関係のない話だ。
「名前つけなくちゃな。なんて呼ばれたいんだ」
そういえばこれはまだ子どもなのだろうか。もしかしてオニューって生まれたてってことか。それにしては大きいような気もするが。
「大型犬の子どもだったりするのかお前」
そう聞いたところで返事があるわけでもないだろうけれど、つい口に出てしまう。当然だけれど答えは返ってくるはずもない。
「まあ、そのうち分かるか。とりあえず、みんなにあいさつだな」
子どもたちの元気についていけるのだろうか。少しだけ不安になりながらもみんながいる広間へと連れていく。
その間も犬はきょとんとした表情を浮かべていて、何が起きているのかいまだに理解できていないようだった。
それもすぐにそうも言ってられるなくなる。そう思いながら扉を開けた。
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