金縛り・ヒップホップ・霊に取り憑く霊

 寝ていたはずの部屋の天井に見えるが、明かりは消したはずだし、遮光カーテンのおかげで天井が見えることなんてないはずだ。たとえ目が慣れたとしても光が全くない部屋で天井が見えることなんてないのだ。それが奇麗に薄暗いながらも見えている時点で異変は感じていた。普段横向きで寝ているのも異常な証拠だ。仰向け以外では金縛りが起きにくいと知ってから仰向けで寝ることはなくなっていたのだ。それが天井が見えていて、横向きに寝返りをうつこともできない。それが表している意味はひとつだ。

 恐れていた金縛りが起きている。そう自覚すればするほど、動くことは出来なくてこれが金縛りだと言う事を自覚してく。それは負の連鎖だ。そうしている内にだれかが自分の上に乗っているのが分かった。やばいと思うがどうすることもできず、初めての体験に恐怖は膨れ上がっていく。

 ぬぅ。っと若い女性の顔が目の前に現れた時には悲鳴を上げたような気がするのだが、実際には声は出なかった。何かしてくるわけではないがじっと見つめられていると気がおかしくなってきそうになる。目を閉じようとしてもそれすらできない。どうしたらいいのかわからないまま時間だけが過ぎていくのが分かる。時間が解決してくれるのか。それすら分からないまま過ごす時間ほど苦痛なものはない。

 どれほどの時間が経ったのだろう。次第に恐怖もなくなりつつある。なにせ何もしてこないのだ。動けないだけでだんだんと退屈とすら思えてくる。

 するとそれを察知したわけでもあるまいが、上に乗っかっている女性が立ち上がった。そうすることで初めて分かったのだが足はしっかりと透けている。これが霊にしろ自分が作り上げた幻想にしろ、まあよくできてるものだと少し感心すらする。

 そうしている間に、ずんちゃずんちゃと音楽が鳴り始めた。それに合わせて女性が躍り始める。ヒップホップダンスだ。緩急をつけた動きはしっかりとしていて実力者であることがうかがえる。いや、冷静に分析している場合なのか。なぜ金縛りの間にヒップホップダンスを見せつけられているのか。たとえ霊だったとして、披露することのなかった特技を披露できなかったらか成仏できないでいる霊なのか。自分の作り出した幻想だとして、自分は何を望んでこんな光景を見ているのだ。深層心理になにを求めているのか。

 頭は非常に混乱してしている。しまいにはきっと金縛りをしている霊に取り憑いたダンサーの霊が踊っているのだ。なんてことまで考えだした。自分でも何を考えているのか分からない。霊が霊に取り憑く必要があるのかなんてわからないが、そうであれば面白いなと思ったのも事実だ。そうなるとやはり自分が作り出した幻想のような気がしてきた。

 だったら、なにを思っての光景なのか。それはそれで問題だ。

 踊るのを見ていなかったからなのか、再び顔が近づいてきた。少しだけだけどびっくりして背筋が凍る。勢いに押されて目を瞑った。そして気づく。目を瞑れた。

 目を開けると真っ暗な部屋。何も見えやしない。手探りでスマートフォンを探り当てた。身体は自由になっている。スマートフォンの明かりを頼りに部屋の電気をつけた。

 何もいやしない。先ほどまでの体験は夢だったに違いない。

 床に何かが垂れた。自分の汗だった。そうして初めて気づくのだ。体中が痛い。まるで全身が筋肉痛のような感覚。そして滴る汗。もしかして踊っていたのは自分?

 しかし、その答えを誰も教えてはくれない。

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