クローン・シロヘビ・ギャル

 町通りの人は多くて少しでも気を抜けばぶつかってしまいそうになるのをどうにか回避して歩かなくてはならなかった。若者が多いのは町の特徴のひとつであろう。それは前情報としてしっていた。それでもどうしたって煩わしく思ってしまう。ギャルと一昔前まで呼ばれていたであろう存在も多く、みな同じ顔をしているのも見ているともはやここは近未来のSFの世界でこの歩いているギャルたちみんなクローンだと思えてくる。その証拠にみな同じように々入れ物を手に持ち、同じ飲み物を飲んでいる。それも全員ではないが高い確率なのを考えると、クローンは全員ではなくそう高くない確率で含まれていると思われる。

 そう考えたところでばかばかしくなって考えるのをやめた。人は流れに乗る。たとえ別の人物だとしてもその流れに乗れば同じようなものになる。ただそれだけのことだ。

 わざわざこんな人ごみに埋もれに来たのには訳があった。単純に人に呼ばれたからだった。なにやら見せたいものがあると言う。それを見せてもらうためにここまで出向いたのだ。人ごみの先には公園と呼ぶにはお粗末なほど小さい交差点の四つ角の一画を広場にしただけの空間があってそこで待ち合わせている。信号が青になると一斉に車と人が動き出す。その動きを広場で茫然と眺めているとやっぱり、この人たちはクローンなんじゃなかと思えるほど統率の取れた動きに目が行ってしまう。その中でも動きがあっていないのがクローンではない人間なのだきっと。

「よっ。待たせたな」

 呼び出したそいつは遅れてきた。そういうやつなのは分かっている。いちいちイライラしていては時間の無駄なのも学習済みだ。

「なんだよ。そんな珍しいものを見るような眼は」

 そんなつもりはなかったのだが、こいつはクローンじゃないんだな。なんてたわ言が頭に浮かんで離れてくれやしない。

「珍しいものはこっちだよ。こっち」

 そう言って取り出したのはひとつのかごだった。中では何かが動いているのが分かる。まさか生き物をこんな街中に持ってきて見せようなんて言うのか。相変わらず訳の分からない奴だ。

「今日さ、夢を見たんだよ。なんてことがないだけど、シロヘビがとぐろ撒いてこっち威嚇し来るの。おっかなくて目覚めたんだけど、シロヘビって吉兆を運んでくるらしいじゃん?それで家の前にこいつがいたから、もうびっくりして。幸せのおすそ分けをしてやろうと思って」

 そう言って持ち上げたかごの中には案の定シロヘビがいて、こちらを見つけると舌をチロチロとだしてみせる。

 驚きと呆れが同時にやってきて自分でもどんな表情をしているのか分からなくなる。しかし、それを見てそいつは大声で笑いだした。辺りを行く人達がギョッとしてこっちを見てしまうくらいには笑っている。

「いやぁ。その顔を見たかったんだよ。わざわざ呼び出した甲斐があったと言うものだ」

 よくわからないけれど、そう笑ってくれるならそう悪い気もしない。町行く人たちはもう元通り統率の取れた動きをしている。それに比べてこいつはなんて自由なんだと思った。

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