満点の星空・全身黒ずくめの男性・公衆

 食事をしながら満点の星空を見上げながら食べることが出来ると噂の食堂に訪れたのは、クリスマス前。町の装飾が派手になっているなかでその食堂は特に装飾もなく地味といえば地味な装いをしていた。地上2階建ての日本家屋を改装したと評価サイトに書いてあったがまさにそのままの食堂で2階に案内される。

 ひとりで来る人は珍しなんて世間話をなしながら案内されると、天井が三角柱の三角の頂点のようになっているのがわかる。柱が数本天井を通っているが空を見上げる為に最低限なものしかないように見えた。そして、天窓から広がる星空が目に飛び込んできてその場に立ち尽くしてしまうのを見て店員さんが苦笑する。

 そこまでリアクションしてくださる方も珍しい。とのことだ。そう言われても星空に見とれてしまったのは事実だし、まだ見ていたいと言う気持ちが強く残り、動けないでいる。

 そしてゆっくりと視線を店内に戻すと、不思議な光景が広がっていた。テーブル席が2つ。そのうちの一つは料理もなく自分が座るのだとわかる。そしてもうひとつには全身黒ずくめの男性が座っていた。それもひとりだ。店員さんが珍しいと言っていたのはひとりということだけではなく、お一人様が二組が珍しいと言っていたのかも知れないと思った。

 しかし、見事なまでに全身が黒い装いで包まれている。こんな時期だ。外に出たらその黒さで公衆の場に出たら紛れてしまって見つけることが難しそうに見える。そしてそれが狙いなのだとすればそれこそ変わった人なのだろう。

 席に座って料理を待つ間。奇妙な沈黙が流れていくのをじっとこらえる。隣では黒服の男性が黙々と料理を食べている。それをジロジロ見るわけにもいかず星空を眺めていいるがそれを徐々に首が疲れていく。幸い椅子に枕のようなものがついていて疲れにくくなっているのだがそれでも疲れるので視線が下がる。そうすると隣が気になって仕方がない。

 男性は星空には興味がないのか一度も視線を上げることなく食事を進める。なんでこの場所を選んだのだろうと思わないでもない。それくらい食事が美味しいのだろうか。気になってくる。

 そして料理が運ばれてきてその美味しそうな見た目に目を奪われていた間に男性はいなくなっていた。

 足音すら聞こえなかった。そんなに料理に集中していたのだろうか。隣にいた男性のことを店員さんに聞いてみた。

「あぁ。お客様も見えたのですね。私どもは知らないのです。なんでも、見える人にしか見えないのだとか」

 楽しそうに笑う店員さんに背筋に悪寒が走る。考えたくなくなって見上げた空はとてもきれいな星空が広がっていた。

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