第100話・豪勢な・未成年

 ふと立ち寄ったコンビニで漫画雑誌がこちらを向いているのが気になった。第100話とでかでかと書かれているそれは連載100話を祝うためのもであるのは見ればわかる。しかし、知らないタイトルであり興味はすぐに失せる。それが常だった。それでも、気になってその表紙につられて普段読みもしない漫画雑誌を手に取ったのは、現代で社会現象になりつつもある漫画が連載していた雑誌だからだ。

 つい先日の事だ。映画の公開に合わせて後輩からその漫画についての話題を振られた。

「先輩は観たんですか。映画」

 何気ない会話だ。食事をしている間に生まれるなんとなく、開いた空気を埋めるために放たれた特に意味もない会話だ。映画のタイトルを言わないのは先ほどまでその漫画の話をしていたからで、あえて言うまでもないからだ。

「観てないよ。漫画も読んでないしアニメも観てないしな」

 すべて本当の事だ。周りが騒ぐから観ようと思ったことも幾度とあるが、どうにも踏ん切りがつかないでいた。思えば昔からそういうたちだったような気もする。周りが騒げば騒ぐほど、知らない自分が悔しくてだんだんと意地を張ってマイノリティに下るのだ。それがかっこいいと思っていた時期すらあった気がする。今思えばそれは悪手で、あとから知った時にもっと早く知っておけば良かったと思う回数を重ねていくと、その妙なプライドは消えていった。

 だから今回、観ないのも周りが騒いでいるからなわけでもない。本当に踏ん切りがつかないだけだ。

 妙に豪勢な表紙の絵を確認してから少しだけ立ち読みさせてもらおうと本を開こうとするが青いテープで閉じられていて読むことが出来ない。そういえば立ち読みが出来なくなってきていると誰かが言っていた気がする。昔はこんなこともなかったのにと渋々レジに持って行って購入した。

 少しだけ後悔していたのだ。いや、雑誌を買ったことではない。周りが騒いでいる時にそれを知らなかったことにだ。

 だから第100話がでかでかとアピールされているそれを読んでみようと思ったんだ。もしかしたらのちのち話題になるかもしれない。その時に今ごろ魅力に気付いたの。なんて雰囲気を醸し出してみたい。

 内容はどこかの星のお話だった。まれに異能力もって生まれてくる人間がいるその世界では大人から子どもたちが精一杯逃げながら戦っていた。そう言った異能力者たちがサーカスを作り、星々をめぐるのだ。いきいきとしたキャラクターたちに好感が持てる。豪勢な場面背景が目に飛び込んでくるのが心地よく、派手なアクションシーンは心ときめいた。

 来る!これは絶対にいつかはやる!

『それでいいのか?』

 手の中の雑誌のキャラクターのセリフが自分に問いかけてきたような気がした。

 意地を張って知ろうとしなかった未成年のあのころと何が違うのだろう。結局自分の自己顕示欲のために観なかったり観たり。知ったり、あえて知らなかったりしているだけだ。それは結局ベクトルの差でしかなくて。根本はおんなじだ。

 ちっとも成長していない自分に気づき、肩を落とす。

『でも気づけたんだろう?』

 またキャラクターのセリフがそう告げてくる。

 気づけたのであれば少しは成長しているのか。そう前向きにとらえてもいいのかもしれない。

 ほかの漫画も読んでみることにする。純粋に楽しもうと心に決めながら次のページをめくった。

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