口内炎・開けゴマ・大晦日
朝、目が覚めて口の中の奥のほうが痛いと気付いた時が人生の寝起きの中で最悪なものだと認定される。そうすることでその日、一日がうまく行かないことが決定してしまって、気分が落ち込んでしまう。
まず、仕事のために出かける準備をしなくてはならないが、そこから億劫になって進まなくなる。そうするといつもより一本遅い電車に乗らなくてはならなくなり、少し駆け足で駅から会社までの道のりを歩くことになる。少し息を切らして入った会社では遅刻したわけでもないのに上司に嫌味を流れる様に言われる。そうするとおせっかいな後輩が災難でしたね。と話しかけてきて少しだけ話が盛り上がると、仕事の着手が遅れる。エンジンがかかる前に昼休みになり、エンジンがかかり始めた頃には帰宅時間だ。その日の進捗を報告するのも億劫になるくらいの進捗であることが多く、当然そうなれば上司からの嫌味も増す。残業したいが、残業することは昨今の働き方改革により許されておらず、サービス残業なんてもってのほか。残業による人件費を削減する意味でも帰宅は必ずだ。つまり上司の嫌味はそこに集約していく。
そんなに嫌味を言うくらいなら仕事をさせてくれと思わないでもないが、嫌味が終わったからと言って仕事に集中できるかと問われらたらできませんと即答するくらいには気分は落ち込んでいる。なのでこのまま帰るのが吉だ。しかし帰ったところで次の日の仕事の内容をどうしても考えてしまい、同時に今日の反省会をひとりで開催し始める始末だ。どうしてメンタルが安定しない日はどこまでも安定しないのだろうかと自問自答まで始めてしまう。どこまでも不安定な一日。
それもすべて口内炎のせいだ。そう小一時間くらい問い詰めたい気分な朝だった。なに。先ほどまでの流れは口内炎ができたことによる今日のシミュレーションであり実際にはまだそんなとこは起きていない。しかしこのままではそうなる可能性が非常に高い。そうなっていないのだから、今すぐ出かける準備をしてすぐにでも仕事に向かえば、なんの問題もない。駆け足で向かうこともなければ息を切らしていることを上司にとがめられることもない。
そう今すぐに動けばいいだけなのだ。自らの憂鬱な世界を抜け出すための扉を開くのだ。
『開けゴマ!』
そう心の中で叫んだ。
しかし、もうひとつの問題がその扉が開かれるのを拒んだ。
もういくつか日が過ぎれば大晦日だ。なんたって寒い。布団から出たくない。痛みと寒さのダブルパンチは仕事に行くことすらも諦めていいような気がしてしまう。幸い有給休暇は残っており休む権利はある。しかし、休んだら次の日に上司に言われる内容を少し考えただけでも寒気が増す。それは避けなければならない。ならばいっそ、早めの冬休みとして仕事納めまで休んでしまおうかなんて現実味のない空想をしてしまう。
結局。避けられたはずのうまく行かない一日が想定通りになるのだ。それはもう間違いなかった。
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