オカマ・罠・合法
最初から疑ってかかっていればこんなことにはならなかった。そう考えても、もう遅いのは分かりきっている。だましあいに負けたのは事実だし、油断してすらいなかったのも真実でそれは完全敗北を告げているに等しいことだ。
合法ではない世界に生きている以上、こう言った荒事は覚悟していたし、実際なんども経験してそれでも生き残ってきた実力があるつもりだった。しかし、人気のない東京の街を一人、血が流れすぎて目がかすむ中歩くなんて自体になるんて思ってもみなかった。
盗みに入ったのは、静かな住宅街の一軒家で出かているのか留守であるのがよくわかる状況だった。閉められたままの雨戸。夜になっても明かりが灯ることはなく、しまいには玄関の横には空っぽの犬小屋。長期的に留守になっているのは明白。
だから家に忍び込むのもある程度の金銭を手に入れるのも容易だった。全ては順調だ。そう思えていた。
罠だと思った時にはすでに腹に包丁が刺さっていた。なんでいきなり刺されなければならないのか。盗みを働いたにしては代償が大きすぎやしないか。なんて考えている暇もなかった。痛みと恐怖でその場から逃げ出すことが先決だと本能が告げる。
何者に刺されてたのか確認する間もなく、ひたすら逃げた。夜遅くの住宅街は人通りもなく助けを求めることもできない。いや、見つかったら最後こちらも捕まってしまうのでそれはそれでマズイ。こちらのほうが都合がいいのかもしれないとこんな時ですらそう思ってしまう
必死に止血しながら逃げ込んだ路地裏は街頭が点滅している。そこでようやく自分の失血量を確認して絶望する。力抜けると思っていたが想像以上の出血量だ。
「追いついた」
そこに現れたのは『オカマ』と呼ばれる業界ではそこそこ有名な盗人だ。つまり同業者であり、邪魔者でもある。それにしても刺されるとは想像以上だ。一体何をしでかしたと言うのだ。
「こんな緊急事態の盗みはご法度だってボスからの忠告出ていたはずだよ。それを破ったからには死を。だそうよ。じゃ、伝言は伝えたからがんばってね」
そんな忠告は聞いていないし、この緊急事態に何が起こってもだれも文句なて言わないだろうに、律儀な組織だ。まったく厄介なことこの上ない。
薄れゆく意識の中で不思議な存在が目の前にいた気がした。その存在は自らの手に器用に傷をつけると垂れてきたその血をこちらに飲ませようとしてくる。いくら出血がひどいからと言ってそんな輸血方法はないだろう。そんなもの効くはずがない。そう思いながらも何もすることが出来ず意識を失った。
鳥の声で目が覚める。相変わらず人の気配はない。懐に入れてある少しの金銭を確認して立ち上がった。そこで違和感に気が付く。腹のケガがない。どういうことだ。まさかあの血を飲んだからなのか。
不思議な体験をした。そして盗みはもう辞めようと。そう思った。
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