海外ドラマの12シーズン・バターコーヒー・刑期
バターコーヒー日本上陸の旗が揺れているのを見上げていると時間が経ったのを感じさせる。ダイエット効果がすごい。なんてお題目を掲げる辺りで首をかしげてしまう。
コーヒーと言う嗜好品を飲むことにダイエットと言う理由付けが必要な理由が思い浮かばなかった。痩せたければ砂糖を入れずに飲めばいいだけのような気がしたからだ。人の愚かさは時間が経っても変わらないのを実感する。
大きな規模で見ればそんなに景観も歩いている人の姿も、そんなに変わっていないように思うが、細かい文字まで読み始めると知らない単語が出てくるあたりやはり変わっていくのだとも思う。タピオカミルクティーってなんなのだ。タピオカはぐにゃっとした触感の芋なのは知っている。それがミルクティーに入るのは何故なのか。そんなことを考えている自分に気づき、なんだかんだで久しぶりの自由を楽しんでいるんだと実感する。
時間が経過したことを実感するためにはとレンタルビデオ店に入る。自由を手放す前の直前に見ていた海外ドラマの続きが気になっていたからだ。きっと、ちょうどいい塩梅でエンディングを迎えていて、今から見返すにちょうどいい具合に仕上がっているに違いないと思っていたのだ。
ズラッと並んだそのドラマのラインナップを見て茫然と立ち尽くしてしまった。てっきりシーズン4とかで終わっているものだと思っていた。きっと超大作で見終わる案でに何日かかるのかも概算で見積もりもした。しかし、最新シーズン12ついに日本上陸。なんてPOPを書かれているのを見ると自らの愚かさに天を仰ぎたくもなってくる。これを全部観るのは骨が折れる。この先の人生やりたいことがあるわけではない。それもいいのかもしれないとさえ思う。やりたいことがあるのは純粋にいいことだと、そう思う。
結局、自分の住所すら書けなくなっていた事実に気が付き会員カードの発行ができないことが発覚して、肩を落としながらお店を後にした。久しぶりの自由は楽しいけれど、ついていけていないことにショックを隠し切れないでいるのだ。いや、隠す気なんてない。が正しいか。
家族との待ち合わせの場所に向かう。皆でよく遊んだ公園だった。娘は結婚はしたが子どもはいないらしい、妻も元気でやっていると手紙には書いてあったがお互い、いい年だ。不安は積もるばかりだ。
待ち合わせの場所に着いたが、まだ来ていないみたいでひとりひんやりとしたベンチに座る。昔はこうやったら懐からたばこが出てきたものだが今は持ち合わせていない。おそらく今後も持ち歩くことはないだろう。
しばらくすると入口から手を振る三人組の姿見える。妻と娘はすぐに分かった。もうひとりの男性はだれだろうと少し考えてから娘の旦那だと思いいたる。式の前後に数回顔を合わせただけだ、記憶がぼんやりとしていても仕方がないだろう。決して年齢を重ねたからではないと自分に言い聞かせる。
彼はどこか人を安心させるオーラがあった。この人になら娘を任せられる。そう思ったのも事実だ。
「おーい。お父さん。あっ、ほんとに禿げてるんだね」
久しぶりの再会の娘からの第一声がそれだった。どこで育て方を間違えたのかと思わないでもない。自由に育てすぎたのかもしれない。歳を重ねても娘は娘だった。目に入れても痛くはない様な気もする。
「どうよ、久しぶりのシャバの空気は」
「おいおい。人を悪人みたいな言い方はよしてくれよ」
娘のしたり顔を見ているだけでにやけてしまいそうになるのを必死にこらえる。
「刑期を終えたようなもんなんでしょ?一緒じゃん。それに頭丸いとほんとにそっちの人みたいだよ?」
目つきが悪いのは昔からだったが頭を剃るとこんなにも迫力が出るものだとは思わなかった。サングラスなんてかけた日にはそれこそ人が避けて行ってもおかしくはないなと思う。
「照れてないで、しっかり挨拶をするんだよ。まったく」
そう言葉をつないできたのは妻だ。確かに娘のテンションは妙に高く感じる。そうか、照れ隠しなのか。
「お、それなんだ?美味そうじゃないか」
娘が手に持ったカップを指さす。なに。こっちも照れ隠しだ。話を逸らしたい。妻が横目に微笑んでいるのを見ると、それもお見通しなのか思えてくる。
「あっこれ?バターコーヒー。飲む?」
そう差し出してきたそれを受け取るのはやめておいた。先程の妙な思考のせいだ。頑固なったのかとしれないと思う。
「飲めないモノを最初から頼むんじゃないよ」
これは娘の旦那だ。相変わらずしっかりしている。飽きてしまったらしいその飲み物を旦那に渡す娘を見ているとこんなに我がままだったのかと思えなくもない。やはり育て方を間違えたか。
「苦労かけたな」
娘たちが少し離れたのを確認してから妻にそう言葉をかける。金銭的には十分の蓄えと仕送りをし続けたつもりだが、それとこれとは話が違う。本当に申し訳ないと思っている。
「まあ、帰ってきたので許します」
それだけで救われた気になる。人生の選択肢で妻を置き去りにしたのは事実だ。そこに言い訳なんてない。それでもやってみたいことがあると告げた時の妻の顔を忘れることはない。
「ありがとう」
自分の人生をまっすぐに生きて見たかった。たとえそれがただのわがままだったとしても。
「人生に是も非もありませんよ。ただ必死に生きるだけです」
そう言葉をかけてくれる妻に。
「帰るぞ」
照れ隠しだ。昔みたいに少しだけ見えを張って父親っぽいことを言ってみた。
「お父さんそっち、家じゃないよ」
笑いに包まれる人生であれ。そう願った。
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