船長・胃腸・快調
山頂についた途端、吉兆のごとく雷鳥が飛び立った。雪の残った山に向かって羽ばたくそれを見ていたら調子が悪いなんて嘘みたいに快調な気分になってくる。
プライベートも仕事もそこそこ好調な人生だとは思う。20代後半の人生としては順調にこなしていると自画自賛ではないが自分では満足しているつもりだ。でも時たまそれがどうしようもなく不安になるときがある。本当にこのままでいいのかと、焦燥感が心が乱して乱丁した本の飛び飛びなページの様に自分がどこにいるのかわからなくなったりもする。
大海原で舵を取る船長のように自由気ままに好きなところに進んでみたいと願いもするけれど、そんな勇気が自分に持ち合わせていないことも知っている。少しでも先の分からない道を選ぼうものなら、胃腸の不調が自分のこの先の凶兆を表してしまっているように思えてくる。それがたとえ想像だとしてもだ。
慎重な性格だとは思っていないのだが、どうにも重圧に弱く、慎重にならざる負えない部分が大きいのが原因だ。そしてそんな自分を少しでも変えたくて登山をしている。
標高が上がるにつれ変わる景色を楽しみながら歩いていたのは最初の頃だけだった。だんだんと足が重くなり、歩くだけに集中しなければ足を前に出すこともできなくなっていた。木々も少なくなり山肌が良く見える様になってき頃、雲間の切れ目から見えた景色が眼前に広がった。あまりの光景に見とれていると雷鳥が飛び立ったんだ。
自由に空を飛び回る雷鳥の様に好きなところへ行けたらと思う。思うだけで飛び立てはしない。それでもこの景色を見れたことは良かったのだとそれだけは感じる。
今後も変わらない人生が待っている。それの何が悪い。そう割り切れるだけの気持ちの整理が出来たようなそんな気がする。
慎重で安全な人生。チャレンジすることが大事だと言う風潮に逆らったっていいじゃないか。そう考えていたら急に家が恋しくなってくる。あったかい家でのんびり過ごす休日を満喫するために、下山の準備に取り掛かる。
気分は最高潮に絶好調だ。
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