ランタン・いもけんぴ・給料日
辺りはもう暗くなっているが心の底から明るい光が体の外まで飛び出しそうなくらい今日は気分がいい。
月に一度訪れる給料日はいつだって特別な日だ。少し浮かれすぎている自覚はあるし、普段の自分ならば周りからの視線も少し気になったりはするけれど、今日の自分は無敵だ。そんなことに気を取られることない。
一か月間頑張ったご褒美であるいもけんぴが入った袋が街灯に照らされる。手を勢い良く振っているので影が良く動いている。袋がこすれる音がして、中のいもけんぴが一瞬だが宙に浮いた感覚がある。そんなどうでもないことが楽しくてしょうがない。気分が浮かれるとはまさにこのことを言うのだと思う。
今日も仕事は順調とはいいがたい。上司にもちゃんと苦言を呈されたし、同僚にも変な気の使われ方をして、存在が宙に浮いた気がした。いや、いつもだと言われればそうなんだけれど。それでも、会社を去らないのは去る元気もないのと去ってから行く先が見つからないからだと自分にはそう言い訳している。
踏み切る一歩が肝心だが、踏みとどまる一手も肝心だろう。こうやって給料日を気分よく帰っているのだ。それで十分じゃないかと自分に言い聞かせる。そうして明日からの日々を考えて何も変わらないことを変わりたいと願う。願うだけで行動は伴わず、日々は過ぎる。いもけんぴひとつで幸せになられるなんて嘘ではないが本当でもない。それは分かっているのだ。
人生の道が照らせるランタンが欲しいと思う。自分の行動力の無さに、せめて足元を照らせたら、と思う。そんなことを考えていたら足が自然と止まった。
いもけんぴの袋をおもむろに開けると、二、三本を手に取ると口に頬張る。ぼりぼりと心地よい音とともに、足を再び動かす。
給料日は無敵だ。やろうと思えばなんだってできる。でも、やらない。それが自分の中で生きているって思えることだ。だから最高に気分がいい。生きている実感が最大値になる。また一カ月頑張れる。
いもけんぴの入ったビニール袋は揺れる。心の様に。時々、宙に浮かぶ。浮ついた自身の様に。そうしてあちこちに影を落とす。それでも前に進む。いもけんぴの力を借りながら。
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