昔話・野生・哺乳類

 それはよくある昔話だった。生きていくために必要なそして秘密にしなくてはならない事柄はいつだって、大きな風呂敷でくるまれていて中を知ることはできない。そんな話だ。

 現象としては人が村から消えるのだ。それはたいてい神隠しと呼ばれる。その中でこの村ではそれを猿さらいと呼んでいた。

 野生の大きな猿が人ほどの知能を持って、子どもや老人をさらうのだという。それはお恐ろしいもので、だれも気づくことなくさらわれてしまうらしい。なので、この村では時折人が消える。

 それがただの昔話であれば、まあそいうこともあるさなと聞き流すこともできるのだが、今回起きたのはつい先週の話だった。この令和になった時代に神隠しは誘拐か家出のどちらかに分類されることが多い。そして、そのどちらもたいていはすぐに見つかるものだ。しかし、今回は事情が違うらしい。

 なにって猿を見た人が数人いるのだ。人の数倍は大きい猿だったという。だれもがまさかと思った。そんな大きな存在が今まで発見されずに過ごしていたなんて信じられない。村全体でなにかを隠すために嘘を付いているのではないかとまで言われ始めた時、村周辺で捜索していた警察官ひとグループが姿を消したのだ。

 緊急事態だと言うわんばからりに対策会議が開かれたがなにかが決まることはなかった。銃の携帯と発砲が許可されたくらいでやることは捜索以外の他になかった。

 だから足が震えようとも、こうやって山を創作し続けることが最善なのだと命令されればやらざるおえない。

 5人でひとつのグループ。もう山に入ってから4時間は経つだろう。しかし、何かの気配は見つからず、当然猿の痕跡も見つけることはできない。

 いっそ見つからなければいいのに。そんな思いもグループ内の動きから感じ取れる。何事もないまま帰りたい。そんな気持ちが見え隠れしているのだ。

 山の中は薄暗く、生い茂った草木を刈りながらの進みは非常に遅い。といいつついつでも帰れる距離にいたい。その気持ちが全員にあるので進みが遅いのも絶対にある。

 だからなのだろう。村から近いのも理由の一つなはずだ。なぜならやつらはターゲットを狙っていたはずなのだから。

 大きな音とともにまさし大きな猿が3匹現れる。大きな体格を見て本能が恐怖する。同じ哺乳類として絶対に勝てないと理解する。

 悲鳴を上げながら銃を放つけれど、震えで照準が定まらない。そうしている間に、2人が太い腕に飛ばされていた。

 この猿たちが村一つの昔話で収まるくらいおとなしくしてくれることを感謝しなくてはならないのかも知れない。そう思ったところで意識がなくなった。

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