少女漫画・捕獲・神殿

 神殿は簡素な石造りの建物で出来ていて、知識としては知っているけれど実際にはお目にかかったことのない内観をしていた。だれともわからない人物の石像が等間隔に立ち並ぶ。それもふつうの人の大きさではない。まるで巨人の大きさだ。いや、実際の人物を大きくしただけのあのかもしれないが、知らない人なので本当に巨人の可能性だってある。

 そこのちょうどステンドグラスの窓から神秘的な光が差し込む場所に神官らしき人が立っている。そしてこちらを見下ろしているのだ。それは神官が巨人だからなのではなく、俺が膝をついて座らされているからなだけだ。重そうな甲冑を着た兵士ふたりに取り押さえられているのにも理由がある。

 それは俺がこの世界に召喚された異世界人だからだ。

 中世ヨーロッパのような世界に召喚されてしまう少女漫画を妹から借りて読んでいた時の事だ。どこからか声が聞こえてきた。いや違う。脳内に語り掛けてきたってやつだ。

『勇者様。お願いです。この世界を救ってください』

 かわいらしい女の子の声に聞こえる。これはあれなのか。この漫画にあるように俺は今から異世界に召喚されたりなんかしちゃったりして、勇者になったりなんかするのだろうか。しちゃうやつなのだろうか。

 いや、でもまさかなと思う。これはなんかの幻聴かなにかで、これは単なる疲れと言うのも否定できない。

 そうこうしている内に自分の部屋がぼんやりとしてきた。あれもしかして意識が朦朧としている?なんてことを考えていたら本当に意識を失っていたらしい。

 気が付けば今のこの現状だ。ぼんやりとしたまま神官を見上げる。おじいちゃんだ。いや、歳をとった人と言う意味ではない。実際に俺のおじいちゃんだ。そっくりさんか?いやでもこんなに似ている人が世界に複数人いるものなのか。ここは異世界だから違う世界だからいてもおかしくないのか?

 そして俺を呼んだ女の子はどこなんだとキョロキョロする。それらしき人物はいなそうで肩を落とす。あれか、女神様設定ですでにもう会っているけれど記憶を失ったってやつかそうに違いない。

「何をキョロキョロしている」

 右半身を抑えている兵士が威圧してくる。なにって、初めて訪れた世界がどんなのか見ているだけだが。あれ?今の声聞いたことある気がするな。

 もしかして親父なのか?声はそっくりだしそう思ってみれば背格好もよく似ている気がする。まあ、甲冑だからよくわからないんだけど。

 目の前にはおじいちゃん。右側には親父にそっくりな人がいる異世界ってなんだ。身近過ぎて異世界な気がしないのだが。

「そういえばなんでおれ捕縛されているですかね」

 単純な疑問だ。召喚されたのならばもっとこう好待遇でもおかしくないのではないかと思うのだけれど。

「それはだな……」

「あにいの誕生日だからだよ!」

 突然妹の声がする。そしてそのセリフと言うことは?突然神殿の中にハッピーバースデイの音楽が鳴り響く。

 つまりは異世界召喚なんてあるはずもなくて、ただ単に誕生日のどっきりを仕掛けられただけと言うこと?

「そう、少しだけ睡眠薬盛らせてもらっちゃった」

 てへ。と笑う妹に冗談じゃねぇとキレたい所だったが、兄を喜ばせるためにしたことだ。許してやろうじゃないか。

「さ、それじゃあ冒険にいざしゅぱーつ」

 いつの間にか冒険者風の格好に着替えている妹が仕切り始める。神官のおじいちゃん兵士の親父とおふくろ冒険者な妹に俺は勇者なのか。

「まさか実際に冒険もできるのか?」

 そんな贅沢な誕生日プレゼントがあるのか、魔物も待っているのか。どうやってそんなこと仕込んだのだ。

「ま、細かいことは気にしない気にしない。レッツゴーだよ」

 そうして俺は冒険に出発したのだ。妹がぼっそっと。

「たまに恐怖で動けなくなる人もいるからねぇ。ゲームと思ってくれたほうがやりやすいのよね。最近は」

 と言っていたのは聞こえなかったことにしておくことにした。

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