雷・鬼ころし・阿鼻叫喚

 遠くで雷が鳴り響いているのがわかったが屋根のない公園から動く気なんて起きなかった。直に雨も降ってきそうなくらい雲は暗く厚くなっていっている。

 近頃周りはみな阿鼻叫喚と言わんばかりに騒ぎ立てている。

 全部妙な噂が広まったからだ。甲府盆地を発祥とするわけのわからない都市伝説の数々。それに振り回されて、正常な思考をしている人などいないのでは思えてしまうほど、冷静に話をしてくれる相手はいなくなった。

 仕事も手につかず。いや、そもそも真面目に出社したところで仕事が回るはずもない。どうしたらいいのかと対策を考えているだけの会議なんて出ても無駄だと思っているからだ。

 未来に生きなくてはこの先しんどいだけだ。

 人間というものは結局明日どうにかなると言う思いの上に立っているのだと思う。極端な話。今夜からご飯を食べられる保証がなくなったとする。しかし、どこかでいつか食べることができるのだと信じているからこそ、我慢して生きていけるのだ。その先を信じることができなかった状況に置かれた時に人は簡単に自らを諦める。

 だから。なんとなくの希望だけ浮かべ続けている会議に興味はなかったし、具体的な考えがないのに希望を持てるのものよくわからなかった。

 近々甲府盆地を閉鎖する話まで出ている。そこから、物資や経済活動、生命維持までどのような対応をするかは詰めているようだが、そこまで追い込まれている証拠だとも言える。まったくよろしくない話だ。

 手に持っていた鬼ころしと書かれたパックの中身を飲み干す。鬼のように屈強な男すらも倒せてしまうはずの酒は決して今の現状を倒してはくれない。それどころか、ここにいる屈強でもなんでもない男ひとりも倒せやしない。

 敵は強大で相手も不明なのだ。そんなものと真正面から戦っても勝てるはずがない。相手を知らなくてはならない。幸いネット回線まで切断されるわけではないようなので情報収集にことかかない。そもそもネットの情報が先行して現状だ。時系列にまとめていけばなんとかまとまるかも知れないという希望がある。

 そう希望があるのだ。そうすればこの現状を打破できるかもしれない。

 雨が振り始める。雷が近づいてくるのがわかる。それでもしこから動く気にはなれなくて、必死に考え続ける。生きるために。ただ、それだけのために。

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