厳戒態勢・伝言ゲーム・甲府
それは最初は単なる噂でしかなかったと思う。山梨県の甲府盆地で行方不明者が何人も出ているのだという。警察も躍起になって動いているが何も情報が集まらなく、まるで神隠しにあったのでは無いかと言う噂が広まったのだ。しかし、実際誰かいなくなったとか、そういう情報はちっとも広がらずにいるところを見ると単なる噂で、実際には起こっていないことだと言うのが当初の見解だったのだ。
それがいつの間にかゾンビ化している集落があるとか、家族まるごと神隠しにあったみたいに朝食のシーンが残されたままみないなくなったとか、なにものかに、食い散らかされた村があるとか、伝言ゲームみたいにあやふやな噂が広まり始めたのだ。
これにはさすがにいろいろな人が動き始めた。そのような事実はありませんとか。憶測だけで話を広めないで下さいとか。ニュースにもなったりしたんだ。けれど、不思議なくらいその現象は収まることを知らなくて、毎日の様に騒ぎが起こり続けた。
一番困ったのは住んでいる住民たちだ。何事も起きていない日常がかき乱され、毎日の様にメディアが殺到しコメントを求められる。それに観光客も一切来なくなった。その不思議な噂をうのみにしたわけではないだろうが、不気味がって誰も近づかなくなったのだ。ただ野次馬は増えたし治安は悪化した。
つまりいいことなんてひとつもなかったのだ。止めたいし事実を広めたいと住人たちはみな思っていたが、どうしていいかわからいのもまた事実だった。もう
東西に伸びる中央線の東は大月、西は小淵沢、それに国道20号線。南部から富士山をぐるっと回るように走っている国道138、139号線、北へ抜ける140号線。これらをすべて封鎖した。物理的にだ。鎖国と言ってもいい。
噂が鎮火するまでの間、外部との接触を断った。物資はすべて空輸に頼り、治安の正常化に努めた。
その結果起きたことは、噂の増大だった。入ることが出来ない甲府盆地で何かが起きている。知ることのできない好奇心は質が悪い。
憶測が憶測を呼び、気が付けば甲府盆地は都市伝説の宝庫になっていた。
のちにまとめられた一冊の本が出るほどには。それが観光資源増加の一任を担い、一大観光名所となるなんて誰も思わないままに。そのつらい日々は過ぎていくのであった。
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