マシュマロ・薬・くすぐり

 昔から異物を飲み込むのが苦手だ。誰だってそうだろうとは思う。しかし、食事自体も苦手なのだ。苦手なものを飲み込むこと自体が難しい。特に葉野菜は苦手分野としては大きなくくりだ。シャキシャキとした味のない物体を飲み込むことが厳しい。

 次に難しいのが根野菜だ。葉野菜に比べて歯ごたえがあるぶん噛み締めることはできるのだが、独特な匂いが受け付けず、飲み込むことが難しい。

 飲み込む話ばかりしているが、それは目の前に置かれたカプセル状の薬が喉を通ることを拒み続けているからであり、それが飲めない限りここから解放されないことに対する言い訳でもある。

 どうにも飲み込めない。水と一緒に飲んだと思っても喉の奥に残ってすぐに口内へ戻ってくる。どうやっているのか自分でもその動きが理解できず、水を大量に流し込んでもどうやって喉元に残しているのがさっぱりわからない。

 苦戦を強いられていると母が奥からマシュマロを持ち出してきた。そのマシュマロの中に薬を詰め込んで飲み込んでしまえば行けるのではないかと踏んだのだ。それならば行ける気がした。しかし、マシュマロ自体は飲み込めたのだが、不思議なことに薬は口内に残った。何度やっても同じことの繰り返しだ。そのうちマシュマロの甘さで気持ちが悪くなってくる。

 ならば作戦変更だと、母がだんだんとノリノリになっていくのが若干気になりながらも飲まなければならないという気持ちだけを頼りに薬へと向き合う。

 まずは水を口に含む。その後、薬をその中へ突っ込む。そうしたら母が後ろから一気にくすぐりを仕掛けてくる。その反動で一緒に飲み込んでしまえと言うのが作戦だった。

 しかし、そんなことがうまくいくわけがない。逆に水を噴き出してしまう。

 きったないなぁ。とぶつぶつ言いながら床を吹く母に多少の怒りを覚えながらも、薬のありかを探す。

 しかし、床に薬が落ちている様子もない。どこかありえないほど遠くへ飛んで行ってしまったのだろうかとも思ったが、そんな様子もない。

 ふと、口内に味わったことのない不快感を感じてそれを手のひらに吐きだす。そこには穴の開いたカプセルがあった。噴き出したにも関わらず口内に残り続けるその薬に殺意すら芽生えそうになるがそれどころではない。カプセルの中身はすでに空っぽなのだ。

 口内に言い知れぬ不味いという味覚が広がり続けている。慌ててコップに水を注いで飲むがその不味さは薄まることなく、下を口の中全体を汚染し続ける。

 今度は絶対に飲み込んでやる。その不味さのあまりそう誓ったのだが、それを成すことが出来たのはずっと先の話だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る