青藍・不死身・ポニーテール 再

 青藍せいらん色の空を見上げる。青空とは違い暗い青である青藍色の空はどこまでも落ちて行ってしまいそうなるくらい深く、果てしなく感じられる。幾年もの月日を重ねた結果空は暗くなっていった。まるで、人類の罪が染み込んでいくかのように。

 それは行き過ぎた科学がそうさせたのか、はたまた人類の争いが激化した結果か。マッドサイエンティストが世界を滅ぼそうとしたのか。外宇宙からの侵略者の影響か。どれもしっくりしないし、もう覚えてはいない。思い出そうともしない。なぜならその行為に意味なんてないのだから。残っているのは事実だけだ。

 ある時を境に人類は増えるのも減るのも辞めた。

 生殖行為をしても新たな命は生まれなかった。どれだけ励もうと、どれだけ人工技術に頼ろうと、人が人が生まれることがなくなった。人工授精が成功してもそれが成長することがなくなった。

 でもそれだけではない。それと同時にあらゆる人類は死ぬこともなくなった。病気がなくなり、歳をとることがなく身体が老いることはなかった。まあ、成長もしないのだけれど。ただ一つだけ例外があった。事故やケガによる死は避けることが出来なかった。それどころか小さなケガも治ることはなかった。傷口はふさがらず、血は出続け。体内から血が少なくなるとその人は動かなくなった。それが死なのか、動けないだけなのかはだれにも判断できない。新たな死生観が生まれもしたけれど、次第にだれも興味をなくしていった。

 そんなわけで、人類は徐々にではあるが数を減らしている。

 ただ、生に関する執着だけは残り続けた。つまり、人は人とかかわることを避けるようになった。ひとりで、生きているのが一番安全だと気付いたのだ。助け合う必要はない。ひとりで生きていけるのだ。関わってケガをするより、ひとりで身の安全を守り続けたほうが生存率が高いことに気が付いたのだ。

「そうは言っても、誰かと話をしないと生きている実感が出来ず自殺しかねないしな」

 そう隣の女の子に話しかける。女の子と言っても年齢はもはや忘れた。実年齢は女の子というレベルではないはずだ。

「そうね。だからと言ってこうやって黙って会いに来るのはいかがなものかと思うわよ」

 昔は冷たい女の子じゃなかったと思う。明るくて元気で、いつでも飛び回っているポニーテールがよく似合う女の子だった。

 すべては時間がそうさせるんだ。そう思うしかない。悲しいことなのかも知れない。でもその機微きびを感じ取る事すらできない。

 もうすべて過去の事なのだから。

 青藍色の空はこれからもっと暗くなっていくのだろう。それと同時に人の心も暗く落ちていく。

 どこまでも。どこまでも。

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