ハニワ・トング・スズラン

 目に入る景色は木々が生い茂るジャングル。空を見上げても木々に覆われて見えない。日は隙間から差し込んでいるのか、辺りははっきりと見渡すことができる。

 気が付くとここいた。ほかにも数人が同じように呆けている。

 自分はなぜここにいるのか。いつからなのか。誰がここに連れてきたのか。思考はぐるぐると回り、答えに行きつくことはない。

「おい。どうなってるんだ。ここはどこだ!」

 ひとりが騒ぎ始めると、まわりの人たちもヒステリックになり始める。どうにかなってしまいそうなのはみんな同じだし、騒いだところでなにも解決しないと言うのに、なぜそれが分からないのか。そう冷静になれと自分自身に言い聞かせ続ける。そうでもしないと、自分もあの集団と同じように狂ってしまいそうだからだ。

「あれか。殺し合わせるってやつか。おい、武器はどこだ。探せよ。どこかにあるはずだろ」

 混乱は混乱を呼ぶ。どこかで暴力も発生しているようだ。ただ、小説やドラマであるように殺し合いをさせたいわけではなさそうに見える。武器もなく、場所は広い。少し辺りを調べてみる必要がありそうだった。

 辺りはジャングルの様に生い茂っている。しかし、虫や動物の気配はなく、植物も生きているというよりオブジェとしてそこにあるといった印象を受ける。

 妙な気配がして頭上を見上げる。そこには大きなスズランの花がなっているのが見て取れた。

 そこから水滴が垂れてくる。その水滴があまりにも大きくてゾッとする。それは一粒が人の大きさくらいあるものだ。必死にその場から飛びのいた。

 ビシャン。大きな音を立てて、水滴が辺りに飛び散る。その場所は水たまりとなるくらいの水量だ。まともに浴びたらその重みでケガをしかねない。しかし、なんなのだ。あの巨大なスズランは。これだけ大きな水滴がついていた花だ。そうとう巨大なのだろう。それもずいぶん高いところにあるから、実際の大きさがつかめない。

「おい!見ろよ巨大なハニワが降りてくるぞ!」

 誰かの声がする。スズランの花の近くからハニワが降りてくるのが見える。ハニワ?なぜとかどうやって?とかどこから?とか様々なことが浮かんでは消えていく。

「なあ。でかくない?」

 スズランの花の隣まで降りてきたころに誰かがつぶやいた。明らかにでかい。それは自分たちの3倍近くの大きさはありそうだった。

 全身に危険信号が走る。あれはやばい存在だと本能が告げる。

 その大きさに気づいた人からその場を逃げ出していた。それはパニックだった。もはや、逃げ回る事しか頭にない人たちは冷静な人間からしたら恐怖だ。その恐怖は増幅されて、冷静をぎりぎり保っていた人たちも巻き込む。

 そうしている間にハニワはゆっくりと地上に降りた。

 なぜか手にはトングを持っている。どやって持っているのだ。ドラえ〇〇と同じ仕組みか。近くにいた人がトングで挟まれた。いや、そんなことはどうだっていい。逃げろ。足を動かせ。そう体に命令するけれど動けない。

 トングを器用に操ると、ポカンとあいた。口に当たる部分にトングに挟まれた人が投げ込まれた。真っ暗なその先に何があるのか想像もできないが、その空虚な穴からは何も聞こえてこない。

 あまりの恐怖に足を止めていた人々はそれを見ると堰を切ったかのように散り散りになって逃げた。

 そこは箱庭だった。

 それは人を閉じ込めておく場所に見える。

 それにしては大きく、広く、複雑だ。

 そこではハニワが走り回るという。

 何が目的なのかはわからない。

 ただ、そこから帰ってきた人がいるのも事実だ。

 でなければこんなうわさは広がらないだろう。

 どこかにそんな場所があるらしい。

 それはひっそりと、うわさとして広まっていった。

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