青藍・不死身・ポニーテール
高いビルから人影が飛び降りるのが見えた。突然の出来事に体が固まる。距離もあるので、見間違いかもしれない。いやそんなはずはない、確かに見た。そして、その影はふわりと着地したのだ。確かに。確実に。ぶれることなく。それがまるで当然の事象かの様に。
誰かに見られているとは知らずに一ノ
人より身長が高く、すらっと伸びた手足は人目を
誘いこまれている予感はあった。そこは人気のない球技場だ。人目を気にしているのならば、好都合だ。存分にやれる。
「はっ。のこのこと付いてくるなんて自分の立場がわかっているのか」
その物語は自ら姿を現した。黒いマントにタキシード姿の彼はこの時代には似つかわしくない。それも当然で彼は物語の登場人物なのだから。
「せっかく自由に血を
彼はその様に主張するがそれが許される世界ではないのだ。
「しかし、わざわざこんなところまで来てくれるとは助かる。そのひ弱な体から血を抜きってやる」
彼は思むろに一ノ瀬に襲い掛かる。その力の差は大きく捕まったらお仕舞だ。必死に逃げ回る。しかしその姿にも余裕が感じられ、彼は焦り始める。
一ノ瀬和美は一冊の本を取り出す。青藍色の背表紙に雲の絵が空に浮かんでいるハードカバー。それが光の粒に変わっていく。次第にその光の粒は日本刀の形に変化していく。そのまま、それをふるう。
ドサッ。
彼の腕が地面に落ちた。彼はそれをなんてことない顔をして拾う。
「おや。強い。だけどこちらには届かない」
切断面をくっつけてしばらくして離す。それはくっ付いていた。
「不死身か。吸血鬼で間違いないようだ」
一ノ瀬和美はそれを見てため息を吐く。
「ならば話は早い」
一ノ瀬和美は駆ける。吸血鬼はそれに反応すらできない。
「心臓を突けば終わりだろう?」
日本刀は吸血鬼の胸を貫いていた。
吸血鬼の体が光の粒へと変わっていく。
「なっ。人間ごときが……」
驚いた表情のまま。
「ああ。人間ごときにやられたんだ。おとなしく物語の世界へ帰りな。もう戻ってくるんじゃない」
光の粒になった。それもやがて消えた。
「ふう。任務完了だ」
一ノ瀬和美はひとり呟いた。
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