忍者・吸血鬼・テロ

 忍び装束とでも言うのだろうか。紺色の頭巾に上衣うわぎはかま。手には忍者刀なのだろうか。小降りな刀を手にしている。

 まあ、いわゆる忍者だ。その忍者が夜の町を駆け回っている。古い町並みではない。高層ビルが立ち並ぶ大都会でだ。ビルからビルへと飛び回る姿は現代の忍者と言って差し支えのない姿だ。

 忍者はある場所に向かって急いでいた。ある密命をこなすためだ。その任務は非常に重大だといわれており。この国の命運を担っていると言っても過言ではない。

 ふと、忍者の足が止まる。普通の人間であれば立ちすくんでしまいそうな高層ビルの上で忍者じっとなにかを待っているようだった。

「姿を現す気はないのか。そこにいるのは分かっているのだぞ」

 忍者の言葉にコースケさんが驚いたのがわかる。

「驚いてないよ。最初から分かっていたさ」

 私に返事なんてしてないでしっかり忍者のほうを見てなよと思わないでもない。

「そのホウキ。魔女の類いか」

 忍者はコースケさんを見ると怪訝な(頭巾でよくは分からないけど)顔をした。

「そっ。なんで尾行されてるかはわかるよな?困るんだよそういう大事を持ち込まれるの」

 コースケさんの声が少し震えている。強がりなのがわかる。

「魔女に邪魔される所以はないと思っていたが!」

 忍者は唐突に手裏剣をコースケさんに向かって投げてきた、コースケさんはまたがったホウキに少し力を加えると、ひらりとそれを避けた。

「邪魔するでしょそりゃ!そんな危ないもの持って!どこにいくつもりさ!」

 忍者は次々に投擲とうてきしてくる。手当たり次第だ。手裏剣が無くなったら、次はクナイを投げてきた。

「魔女に語る言葉など持ち合わせてはいない!」

 忍者はコースケさんが空中で回避に専念している間に、走り始めた。どうやら任務の遂行を優先したらしい。

 先ほどまでのスピードはどうやら姿を隠した上でのスピードだったらしく、忍者はみるみるうちに小さくなっていった。

 逃がしちゃった。コースケさんいいの?

「まあ、仕方ないさ。それに吸血鬼のおっさんがあとは何とかしてくれるはずだし」

 そういうのならいいのだけど。

「いやだってほら。おっさん来たぜ」

 見るとすごいスピードで何かが近づいてきていた。そうして、コースケさんの目の前で止まる。

 黒いマントを羽織っている。なかは黒いタキシードだ。にやりと笑うその口元からは牙が見えかくれしている。そしてその腕には先ほどの忍者を抱えていた。人ひとりを抱えているのになんでこの人はそれを簡単にこなすのだろうと思わないでもない。

「ふむ。見事だ。気配を消している忍者は我々では探知できなくてな。助かったよ少年」

 コースケさんに向かってその人はお礼を言っている。コースケさん何かしたの?

「まあ、魔女にしかできないこともそれなりにあるさ。おっさんみたいに力技は苦手だけどな」

 コースケさんは何かが入った小瓶を自慢げに見せてきた。また、なにかを錬金術で作り上げたのか。探知可能になるなにか?

「企業秘密だよ」

「はっはっは。相変わらず仲が良いみたいだな。まあ、おかけでテロを未然に防ぐことができたよ。ありがとう少年。それに君もな」

 そう言って吸血鬼さんは私の頭を撫でてきた。レディの頭に気安く触って欲しくないものだが、まあ仕方ない。コースケさんを信頼してるみたいだし今回は許そうと思う。

「なにがレディだよ。ただのペットじゃないか」

 違う!正統な使い魔だ!その辺の猫と一緒にされては困る!

「少年よ。レディを怒らせてしまってはいけないなぁ。その辺りはまだまだ少年と言うことか」

 吸血鬼さんはわかってらっしゃる。コースケさんも見習わなくてはダメですよ。

「はいはい」

 コースケさんはそう言って私のアゴをくすぐってくる。ついゴロゴロ喉をならしてしまう。

「ではな少年。私はこれを届けなくてはならない」

「おっと。ただじゃないよ」

「ああ。すまない報酬はこれだったか」

 吸血鬼さんは赤い液体の入った瓶をコースケさんに渡した。

「サンキュー。また何かあったら連絡してくれ」

 吸血鬼さんは頷くと来たときと同じようにすごいスピードで、どこかへいってしまった。

 コースケさんがこちらをみていた。

「さっ。帰るぞ」

 そう言ってコースケさんはホウキで飛び立ったんだ。

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