スポンジ・カップラーメン・芝生
昼休み。それは日によっては取れる時間が極端に限られることがあるものだ。仕事が順調に進み、余裕で昼食をとることができる日もあれば、会議の前の資料作成が終わっていなかったりすると、昼食なんて栄養調整食品で済ますこともある。それすらできないことだってあったりする。だから、外にでてカップラーメンにお湯を入れて公園でのんびり麺が戻るのを待つことが出来る日は、それなりにちゃんとした昼休みなんだと思う。
会社の隣には大きな公園があった。緑化計画の一つなのだろう。灰色のビルが立ち並ぶビジネス街において、それは貴重な緑なのは確かだ。そこで働く人々にとっても憩いの場になっていることは身をもって感じているところだ。
カップラーメンを片手に舗装されたランニングコースをたどる。大体3分ほどで、芝生広場のベンチに辿り着くので時計を見ずともちょうどいい時間なので、コンビニでお湯を入れた後はたいていこのコースを歩くのが日課だ。今日は天気もいい。窮屈なオフィスに比べれば解放感は比べるまでもなく、仕事のストレスを解き放ってくれる。
芝生広場に辿り着くと、中央で少年たちが野球をしているのが見えた。おや、こんなところで珍しい。しかし、野球とは。この公園では禁止されていないのだろうか。近頃は公園で野球などの球技を禁止する看板をよく見る様になった。ああやって遊んでいるボールが誰かに当たったりする等の事故があったからなのだろう。
しかし、まあ。目くじらを立てることもない。よく見ればボールもスポンジのようで、たいした距離を飛んでいくわけでもあるまい。そう、特に気にすることもなく。芝生広場の周りに設定されているベンチに腰掛けると楽しみにしていたカップラーメンの蓋を開けた。
好物のチリトマト味の酸味のあるにおいを空気と一緒に吸い込む。心地よい時間だ。食欲がそそられ、もらってきた割り箸を割ると一気に麺をすすった。
食べたという満足感の元、お腹を触りながらベンチ上で、空を見上げる。あー、いい天気だ。などと平和な感想が浮かぶ。
「あぶなーい!」
子どもの声だろうか。大きく叫ぶ声が聞こえる。
ふと空から目の前に視線を移す。
跳ねるスポンジボール。
公園の舗装されたアスファルトを跳ね続けながら近づいてきている。突然の出来事のあまりその様子をなにもすることが出来ずに目で追うことしかできないでいた。確かにこんなところで昼食していたのがいけないのかもしれない。が、しかしだ。そんなピンポイントでスポンジボールが飛んでくるなんて、想像はできても想定はできない。
ちゃぽん。
そこされた汁が入ったカップラーメンの容器の中へスポンジボールがちょうど入った。
食べ終わったあととはいえ、子どもたちのスポンジボールが汁を吸ってチリトマトになってしまう。急いで取り出さないと、そう思い容器の中に手を伸ばした。
しかし、ふと手が止まる。違和感があるのだ。汁の気配がない。いくらスポンジとはいえ、この一瞬で汁が全部吸われてしまうことがあるのだろうか。特殊なスポンジだったりするのか。大体あの場所からここまで飛んでくるなんてただのスポンジではないのかもしれない。
恐る恐る、汁にまみれたはずのスポンジボールに手を伸ばす。そして気づく。つかんだ感触がスポンジではないのだ。何かと思ってそのまま拾い上げる。べたつきもしていないし、汁が手に着くこともない。なにより、そのしっかりとした、手触りが頭を混乱させる。
トマトだ。
なぜだから、スポンジボールがトマトになってしまった。あまりの衝撃で反射的に顔を上げて子どもたちに謝ろうとする。
しかし、子どもたちの姿はなく。ボールを追いかけてきた気配も残ってはいない。
なにがなにやら。
もう一度、空を見上げる。それはもう、すがすがしいほどの青い空で。平和な一日を噛み締めることができた。
トマトを口へと運ぶ。みずみずしい、そのトマトはちゃんとトマトの味がした。チリはどこへいってしまったのだろう。
そろそろ昼休みが終わるころだ。そう思い。トマトに噛り付きながらオフィスへの帰路へ着いた。
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