拝啓 死神様へ

狐花

プロローグ 拝啓

  拝啓 死神様へ


 金木犀きんもくせいが強くかおる時期となりました。


 いかがお過ごしでしょうか。


 それっぽく季節の挨拶などを書かせていただきましたが、私はこうした手紙の書き方をよく知りません。


 それにもかかわらずこうして手紙を書いたのは、ただの私の気まぐれです。


 これを書いている今でも、まさか自分が便箋びんせんを前に思案しているのが不思議なくらいです。


 あなたもよくご存じでしょう。


 私がこういう細かい形式ばったものが嫌いなことを。


 そして、めんどくさがりなことも。


 そもそも、今のSNS時代に手紙を書くこと自体、おかしく思うかもしれません。


 ですが、キーボードを打つよりも


 画面をスライドさせて、電子的で冷めた文字を眺めるよりも


 こちらの方があなたに向けて何かを書いてよこすには、しっくりくると思ったからです。

 

 何より、そちらの方がより現実味が増すでしょう?


 なので、以降は好きに書き散らかせていただきます。 

 

 さて、本題に戻りましょうか。

 

 こうして手紙を書いたのは、あなたを見つけるためです。


 あなたは私と出会った日のことを覚えていますか?

 

 私は今でも鮮明に覚えています。

 

 あの日、確か天気は雲一つとない快晴。

 

 ラムネ瓶を透かしたような空でした。

 

 日付でいうと、7月9日のことです―――

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