二人、光の波に呑まれて。

梔子

二人、光の波に呑まれて。

美羽(18)……アイドル。美花とは小学生時代からの親友。二人が所属しているアイドルグループの総選挙で2位を取るほどの人気。

美花(18)……アイドル。美羽とは小学生時代からの親友。美羽とユニットを組んでいる。




美羽「リボンやフリルの付いたコスチュームにきらびやかなステージ。非日常を思わせる光の海の中でも、私たち2人は決してはぐれないと思ってたのに。」


(ライブ後)


美花「はぁ、はぁ……お疲れー」

美羽「お疲れー。盛り上がったね。」

美花「うんうん、いつもよりお客さん多かったもんね!」

美羽「誰もミスしなかったし、夜公演もこの調子で行こ!」

美花「そだね!はぁぁ……お腹空いた。」

美羽「ね。そういえばケータリングの中にカップケーキあったよ。」

美花「えっ、食べたい。食べよ。」

美羽「あ、ほら、これ駅前のお店のだよ!」

美花「えーやば、キレイ!」

美羽「もしかしてこれ一人一人のカラーじゃない?」

美花「確かに!えー、黄色どこー?」

美羽「これじゃない?私は、これかな?」

美花「めっちゃかわいい……」

美羽「食べるのもったいないね。」

美花「写真撮ろ。」

美羽「私も。」


(SE:スマホのカメラ音)


美羽「よし、いただきまーす。

美花「いただきまーす。あむ……(もぐもぐしつつ)おいひぃ。」

美羽「んね!甘過ぎないし。」

美花「最近糖質オフのお菓子しか食べてなかったからお砂糖が沁みてくるわぁ……」

美羽「え、美花ダイエット中?」

美花「そだよ。つい先週からね。」

美羽「へー、私もしよっかなぁ。」

美花「しよっかなぁって、美羽はもういいでしょ。」

美羽「えー、いや、衣装着てると二の腕が気になるし。」

美花「嫌味にしか聞こえないよ。メンバーの中で一番スタイルいい癖に。」

美羽「ごめんって。でもでも、私には私のコンプレックスがあるんですー!」

美花「そこんとこ詳しくー?」

美羽「えー聞く?」

美花「聞くー。」

美羽「んー…………ナンバー2のところかな。」

美花「まーたそういうこと言う!」

美羽「だって悔しいんだもん。この前のライブで開票されてあと5票差だったこと絶対忘れらんない……」

美花「私なんて5位だよ?10人中5位!トップファイブでも微妙じゃん?」

美羽「んー微妙じゃないけど……」

美花「美羽が2位で愚痴ってるなら、5位の私はもちろん愚痴っていいんですー。」

美羽「でもでも、私たちユニットとしては一番人気じゃん?」

美花「エンジェリックリリーね。」

美羽「曲も一つ出させてもらったし、やっぱり美花との仲がファンの皆にも分かるんじゃないかなーって。」

美花「ま、そだね。2人でいるなら一番ってのでも悪くないよね。」

美羽「うんうん、夜公演はユニット曲もあるし、頑張ろ。」

美花「うん。いつものやるか。」

美羽「うんっ!」


美羽「羽ばたけ!」

美花「咲き誇れ!」

美羽・美花「エンリリ、オンステージ!」


LIVE後

(BGM 雨の音)


美花「うわぁ、凄いな。傘持ってないよ……」

美羽「こっち入ってきなよ。」

美花「ごめんね。」

美羽「全然気にしないで。じゃあ、行くか……」


(雨の音強まる)


美羽「ちょっと、これヤバいね……」

美花「雨宿りする?」

美羽「家まで後ちょっとだし、今日は泊まってきなよ。」

美花「えっ、いいの?」

美羽「うん。このまま電車乗ったら寒いだろうし、風邪ひくといけないから。」

美花「ありがと…………あっ、あのマンションだっけ?」

美羽「そうそう!」


(雨の音 フェードアウト)


美羽「ひぇぇ……濡れたね……」

美花「うん、こりゃ酷いや。」

美羽「ちょっとそこで待ってて、タオル持ってくるから。」

美花「たすかる。」


美羽「はい。」

美花「ありがと。」

美羽「先シャワー使って。」

美花「え、美羽先に使いなよ。」

美羽「お客様なんだからお構いなしよ。」

美花「んー、天使。ありがと。」

美羽「へへ、パジャマも適当に置いておくから着てね。」


(シャワーの音 5秒ほど)


美花「ふぅ…………、(部屋に出ていく)ドライヤーってある?」

美羽「あーごめんごめん、こっちで使ってくれる。」

美花「ありがとー。」

美羽「じゃあ、私も浴びてくるわ。」

美花「いってらー。」


美花「机周り、汚いなぁ……アイドルの部屋だっていうのに、こんなんじゃファンが泣くぞ……」


美花「ん?……なにこれ。」


(美花、契約書の内容を読んでしまう)


美花「え……?」


美羽「ふぅ……すっきりしたぁ。」

美花「…………ドライヤー、挿しっぱなしにしてあるから。」

美羽「うん、ありがと。」

美花「…………」

美羽「……美花?」

美花「…………」

美羽「美花?」

美花「えっ、何?」

美羽「なんかフクザツな顔してたから。」

美花「気のせい、じゃない?」

美羽「そう?」

美花「うん、別に何も考えてないから。」

美羽「んー?怪しいなぁ。美花がそうやって言う時は、大体なんか考え事してるの隠してる時だよね?」

美花「……」

美羽「友達なんだから、言ってくれなきゃ嫌だよ?」

美花「……うん。」

美羽「まぁ、どうしても言いたくないんだったらいいんだけどね。でも、心配だからさ……」

美花「美羽。」

美羽「ん?」

美花「……私たち、ずっと一緒だよね?」

美羽「…………当然でしょ。10年も友達やってて、しかも一緒にアイドルにまでなっちゃって、それでも仲良しなんだもん。」

美花「そう、だよね……私、考え過ぎたかもね。」

美羽「私、不安にさせるようなことしちゃった?」

美花「いや、美羽が何かした訳じゃない……けど、何となく……」

美羽「そっか。」

美花「ごめん。」

美羽「……今夜、一緒に寝よっか。」

美花「え?」

美羽「昔やってたみたいに手繋いでさ、くっついて寝るの。ダメ?」

美花「……ううん。一緒に寝よ。」

美羽「えへへ、自分で言ったのに恥ずかしくなってきちゃった。」

美花「何自爆してんの。」

美羽「しょうがないじゃん。もう、恥ずかしいから早く電気消しちゃお。」

美花「はいはい。」


美羽「ふふ……美花からうちの匂いする。」

美花「嗅ぐな。」

美羽「いいでしょ、減るもんじゃないし。」

美花「もう、寝るよ。」

美羽「はーい。じゃあ、手。」

美花「はい。」

美羽「温かいね。」

美花「うん……」

美羽「おやすみ。」

美花「おやすみなさい。」


(翌朝)


美羽「おはよう。」

美花「おはよ、台所借りてるよ。」

美羽「ご飯作ってくれてるの?」

美花「うん、簡単なものだけどね。」

美羽「助かる。10時に事務所に着かなきゃだからさ。」

美花「知ってるよ。」

美羽「え?」

美花「あっ……」

美羽「えっと……私、昨日言ったっけ?」

美花「いや、何も言ってなかったから……私の思い違いかも……」

美羽「そっか。」

美花「うん…………スクランブルエッグ、できたよ。トーストはバター塗っていい?」

美羽「うん。」

美花「…………ご飯食べたら私も一緒に出てくね。」

美羽「あぁ、了解。」


美羽「よーし、いってきます。」

美花「お邪魔しました。」

美羽「いえいえー。気を付けて帰ってね。」

美花「うん、ありがと…………ねぇ、美羽。」

美羽「ん?」

美花「…………本当にありがとね。」

美羽「別にそんなに畏まらなくていいよ!私も美花の家で匿ってもらったことあるし。」

美花「そうじゃなくて……」

美羽「どうしたの?」

美花「……いや、何でもないや。これからも、頑張ろうねって言いたかっただけ。」

美羽「そっか…………また次のレッスンで会おうね!」

美花「うん、バイバイ。」


美羽「私が事務所の意向でセンターになったその日、美花はアイドルを辞めた。私がトップになれば、美花も一緒にトップになれると思っていたのに、その夢は散ってしまった。」


美羽「再び美花に会えたのはそれから半年後、ライブのステージから客席を見下ろした時だった。私色のペンライトを両手に持って、じっと私を見つめる美花の姿に、思わず名前を呼びそうになって、ぐっと噛み殺した。」


美羽「それからはステージの下で、友達として会うこともなく、私たちは光の波によって引き裂かれてしまった。」


美花「こんなに憧れた女の子なんて、美羽だけだよ。」


美羽「いつしかそう伝えてくれた友の面影を追って、私も憧れを終える時が来るだろう。それまで、一人で君の分まで輝きたいと思うのは私のワガママかな。」

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二人、光の波に呑まれて。 梔子 @rikka_1221

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