第16話 運動3
残りの騎士団員は疲弊と絶望で動けない様子だった。
蹲って泣いているか無表情で空を仰ぎ見ていた。
僕はミドオロスの対策を建てるために遠方から視察していた。
何故か、動きが鈍くなっているように感じた。
遠くから見てると近くで見るよりも全体像が見えるから遅く感じると言うのは冒険者の経験から知っていたけど、それじゃ無いと思った。と言うかそう思わないと吐きそうだった。
ミドオロスの行動の違和感から作戦を思いついた。僕は王都から乗ってきた馬に大量の爆薬と毒薬を積載してミドオロスに食べさせた。
爆薬は王都を離れて他国の進軍を防ぐ城に備蓄されていたもので破城槌の破壊に使われているから城は必ず備蓄している。
毒薬はミドオロスのものだ。
大蛇とは言え蛇は蛇。始めは僕たちを丸呑みにしようと涎を垂らしているのかと思っていたが、蛇は涎を垂らさない事を冒険者の経験から知っていた。
なんでも涎は歯で噛み砕く際に分泌されるもので、獲物を丸呑みにする魔獣には必要のない機能とされて退化していったらしい。
ミドオロスが馬を食べるとびくりと震えて、暫くの時間を置いて眠り始めた。
昔、冒険者の間で火薬と一緒に回復薬を飲むとすぐ効くっていう迷信が流行った。迷信と言っても全てが嘘じゃないらしく、知り合いの錬金術師は血液の流れる速度が速くなるから効果が速く出たという事を話していた。
僕の考えはこうだ。
3日活動して1週間寝るのは生物的におかしいんじゃないか?
魔獣には敵が多い。人間からも他の魔獣からも狙われるなら完全に無防備になる睡眠は短い時間で済ませるのが一番。
実際、巣を持たない魔獣の睡眠時間は総じて短く浅い。
巣を作る魔獣でも活動時間と睡眠時間が逆転するなんて、活動時間の2倍以上も睡眠に費やすなんてありえない。
つまり、自分の分泌する毒を消化しきれていないのでは無いかと。
基本的に魔獣が進化する為には他の生物を喰らわないと進化出来ない。
進化の過程で毒の効力が自分の消化能力を超えてしまったのではないだろうか。
急速な進化には不都合な変異が起こりやすいとは僕の信頼する魔法使いであるマルグリットの談だった。
馬鹿げた発想だったけど僕は賭けに勝った。
蜷局を巻いて寝始めたミドオロスを前に『死ぬ寸前まで使いたくない技』を使ったんだ。
僕は痛みを麻痺させる麻酔薬と全身の血液流速を上昇させて普段より力が出るようになる驀進薬と筋肉量を上げる筋肉膨張剤を飲んで、心臓が止まった時に風魔法のエアバレットでショックを与える魔法陣を胸に当てた。
過去に討伐したドラゴンから造った魔剣に魔力電動が良くなる魔法薬を塗布して魔法詠唱をしたんだ。
「我が身を捧げ、終とする。燃えて灰燼となれ!『魔龍撃!』」
単純に、薬を使って自分の持つ力以上の一撃を放つ技だった。それに武器が壊れる位の渾身の一撃を載せるだけの技。
長い歴史の中、魔獣の脅威を祓い続けたセルヴィス家に伝わる必殺技だった。
彼の首筋の肉を割いて、白い閃光が周囲を照らして、剣先から光る魔力がミドオロスの首を遂には跳ねた。
攻撃の光で目が焼けて見えなくなった。
心臓を止めるほどの音で耳が聞こえなくなった。
僕の両腕は肩から骨が砕けて右手の肘先は耐えきれずに何処かへ飛んで消えた。
そして、僕の心臓は止まった。
少しの時間が経って意識が無くなった際に魔法陣が発動した。
止まった心臓にエアバレットの強い衝撃が何度も走って、漸く意識を取り戻した。
僕は血痰を吐きながら口で呼吸をした。
腕は動かないし右手は無いし、目も見えないし耳も聞こえなかったけど、
僕は生きていた。
暫く経って、騎士団員に運ばれて国の最高の医療機関であるキサラギに入院する事になった。
僕はミドオロスに接敵して6日間の戦いの反動を3年以上掛けて治す事になったんだ。
「今の僕の右腕はミドオロスの被害にあった誰かの物を繋ぎ合わせたもので両目はレンズって言うガラス球に魔法陣を描いて脳に描写する義眼。耳は鼓膜の代わりにスライムの皮膜が入って粉砕した骨を固定するのは錆びない鉄で作られた骨になった。セルヴィス家の必殺技の反動だね」
父ユリウスは悲しそうに笑った。
「ぱぱつらい?」
首を傾げて父ユリウスの顔を覗き込む。
壮絶な経験にはこの世界の厳しさがありありと浮かんだ。
私自身、考えを改めなければならないだろう。
敵には容赦なくしなければ。
「辛いさ。けど、僕が死んだら次はローザとそのお腹にいたイアの番だった。最後に・・・絶望の中で最後に輝くのは大切な人の顔だった。だから、悔いは無いよ」
もう、剣は真面に振れないんだけどね。
父ユリウスはそう言って笑った。
私も、悔いのない人生を送る漢の姿を見て笑った。
敵には容赦しなくて良いんだ。
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