第15話 運動2
明るい内に館へと帰り直ぐに父ユリウスの執務室へと向かう。
母ローザと茶を飲んでいたらしく、穏やかな空気が広がる。
「ぱぱ!昔のお話聞かせて。魔王のやつ」
父ユリウスは一瞬固まり、話の出所を察したのか頷いた。
私は母ローザの隣に座って母の手を握った。
「お話を聞いたのはレミーかな?じゃあ、あの時僕が見た戦いを話そう」
前兆はあったんだ。昔から山の奥に住む魔獣が山から出てきたら魔王級が生まれた可能性があるって言われていた。
僕はその時、冒険者から貴族になったばかりで与えられた領地をどうするかとか、どうやって運営して行くかを与えられた家臣達と考えていた。
僕が与えられた領地は前に統治していた貴族が反逆罪で一家皆殺しの極刑を受けた土地で言ってしまえば曰く付きの領地だった。
一人でドラゴンを討伐したから貴族位を預けられた訳だけど出身は冒険者だから運営能力は無い。
王国としては適当な土地を与えて税金だけ取れれば後は、王国法の貴族の義務で縛ることが出来るからそっちの方が都合が良かったんだ。
だけど、僕は冒険者になる前に大貴族の一角、セルヴィス家の跡取りだった。領地運営や貴族の暗黙の了解、王国法にも明るかったから僕の領地は急速に発展していった。
これは王様も予想外だったみたいで、曰く付きで誰も運営したがらない土地。他の領地よりも掛けられた税金が少ない領地だったから他の貴族から妨害工作に合う位だった。
そんな時に此処からずっと遠く、東の方角のカムイと言う首都が壊滅した。
この報告は冒険者ギルドから齎された。ギルドランクが高いと情報が早く伝わるんだ。冒険者ギルドは各地に手信号を送る高台を設置してるからね。
当時のカムイは冒険者から人気の場所だったんだ。
山の奥に入らなくても魔獣が居るって事は遠い所から魔獣を討伐して死体を引きずって来なくて良いって事だから。
怪我してもすぐに街に帰れるし不測の事態に備える回復薬も少なくて済むし人が多いから援助も頼める。
安全だから初心者はカムイに行けと言う言葉まであった。
魔王級の策略だった。
ミドオロス。昔の言葉で狡猾な狩り人と言う名前を付けられた大蛇の魔獣は山の周囲にいる魔獣と冒険者達を丸呑みにした。
そのまま、首都カムイに進行して3日間で全ての生き物を腹に納めると1週間眠った。
遠くからでもカムイの騒乱は確認できたから冒険者ギルドが手旗信号を広く流して全域にカムイの危機を知らせた。
皆んなが信じなかった。
そもそも手信号は誤送信が多い。これまでもミスがあった。
誤送信が原因で騎士団が編成されて税金が上がったなんて事もあったし首都カムイにはそれを守る騎士団が常駐して、腕の良い冒険者に高名な商人に知識人までもが住んでいた。
少なくとも侵略を受けて何も出来ないなんて有り得ないと思われていた。
遠方から確認しただけの学の低い冒険者の言葉なんて信じる人は少ない。
ミドオロスが寝ている間に落ちた鱗が意思を持って動き出した。人より大きい透明な結晶に短い腕と脚が付いた鈍足なゴーレムで結晶の中に喰われたであろう人が入っていた。
ゴーレムはカムイの西にある大都市セラフィムへとゆっくりと向かった。
大都市セラフィムは西の地平線から攻めてくるクリスタルゴーレムを視認して全土に危機を知らせた。
大門を閉めて騎士団と冒険者が召集された。魔獣を迎え撃つために西の大門に集められた騎士団と冒険者達は魔法で迎撃されていった。
魔獣も残り半数となって互いに疲弊している所、反対側の大門が爆散してミドオロスが現れた。
片側に戦力を集中させていたから、戦力が薄くなった場所が狙われた。
魔法を使って疲弊していた冒険者や仲間を守る為に戦士が立ち上がったけど奮戦虚しく捕食された。
疲弊していた者も戦えず避難していた者も捕食された。
ミドオロスは1週間眠り、クリスタルゴーレムを産んだ。この間に王国は貴族等を招集し決死抗戦の令を出した。要は「戦って死ね」って事だね。
貴族として召集された僕は騎士団を率いて戦う命令が与えられた。
実績あるからって言うのは聞こえが良いけど実際は他貴族の妬みも入ってたね。嫌がらせしてきた貴族が僕を推薦したみたいだから。
断ろうとしたけど、父が「こんな未熟者に騎士団の命を預ける訳にはいかん!」って怒り出しちゃったから僕も意地になってね。あの頃は若かったから。
僕が予想してたよりも遥かに厳しい戦いになった。
ドラゴン討伐で自信はあったんだけど1回負けて撤退してからはクリスタルゴーレムを騎士団に抑えてもらってミドオロスと対面する形になった。
それでも負けた。
クリスタルゴーレムは中の人間を殺さなければ無限に再生した。人間を切ると血が吹き出たから生きていたんだと思う。
僕が気絶している間に替わりの貴族が騎士団の指揮を取った。
どんな攻撃もミドオロスには殆ど効かなかった。巨体が高速で移動してそもそも攻撃が当たらなかったから弱い兵士はたった1撃を喰らわせる為の囮に使われる様な戦いになった。
僕が目覚める頃には騎士団の7割が餌になっていた。
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