第9話 領地

8歳となった。

貴族は基本的にこの年齢になるまで誕生日祝いをしないらしい。

前世でも七五三と言って年齢が一定以上になった祝いをしたが、単純に赤子の死亡率が高いからだろう。


誕生日祝いとして望むものを与えると父ユリウスから言われたので冗談で領地が欲しいと言ったら驚いた事にその要望が通った。


成人の精神が玩具を欲するわけでもないからこその要望であったが、流石は貴族。8歳児に領地なぞ与えてどうすると言うのか解らないが、とにかく私専用の遊ぶ場所を与えられたのであった。


そして今日が与えられた領地の視察の日であった。


「たっのしいな♪楽しいな〜」


馬車に乗り父ユリウスと領地へと向かう。馬車の幕張の中では酔うので御者台で父ユリウスが馬車の操縦し私が隣で足をバタバタとして適当に作った歌を唄う。

主人が馬車を操縦し御者が幕張の中に居るという奇妙な格好となったが、整備された道に危険は少なく、問題ないとの判断になった。


「イア、随分とご機嫌だね。そんなに楽しみかい?」


「うん!はじめてのお外だから楽しいよ」


「それはよかった、領地も近い所にあるから僕かレミーと一緒なら気軽に遊びに来て良いからね」


領民たちが住む栄えた市場を真っ直ぐとぬけて門兵が居る大門を潜り、馬車で1時間ほどの領地に着くと高い山を含んだ山下に平地があり、山頂から流れる川の周囲には点々と野花が咲いている豊かな土地であった。


住民は居ないらしく単純に持て余している土地なのであろう。幾ら豊かな土地であっても人手がなければ開拓は叶わず、魔獣の危険がある現状では人は纏まって生活する他ない。


父ユリウスが保有する領軍は騎馬が少ないがために屋敷と領民らの住む住宅地の距離は近く、兵士らが走って向かえる程度の距離に有り父の高級騎士としての経験が活かされては居るものの、農民たちさえも大門の中に住まわせて彼らの農土でさえもその中にあるのだからその農土を増やすには大門の外、近く周囲となる部分に拡張する他なく、その畑は周囲に木柵で囲うだけなのだから野獣に作物を食われるのが農民の悩みの種となっているようだった。


石を積み上げて大門を作るにしても考えようが有ったはず。先祖はもう少し頭使って?


「この土地は他の領地に続く道があって商人たちが使う為に整備された道だから、人通りが多いし魔獣も小型のものしか出ない。レミーだけでも十分対処できるし、弱い魔獣はそもそも人に近づかないから安全だよ」


前世で言えば道路脇に広がる田んぼの奥に山が見えるような土地。耕されてはいないが遊び場には丁度良い。


「ぱぱ、綺麗な領地をありがとう!わたし大切に使うね」


父ユリウスは使う?と小声で呟いて私に笑顔を向けたのだった。


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