第8話 訓練

なんか最近、いやに注目されている気がする。

切っ掛けは先日、医者が呼ばれた時であった。何処も悪くはないが、恐らくは年に1回の赤子の定期検診に訪れた後からレミーだけで無く父ユリウスか母ローザの何方かが必ず部屋に入ってくるようになったのだ。


貴族は平民と違って面倒な世話は女中に任せておくと言う事は産まれてから直ぐに察することが出来た。貴族が面倒な事する筈無いよね。


私が両親と一緒に過ごすのは基本的に授乳の時か1日に1度か2度、父ユリウスが様子を見に来る程度。

それに加えて1日に1度家族で集まる時間が有るらしく、その時間に団欒するのが習慣であった。


それくらいの頻度で在れば猫被りで可愛い子を演じても良かったが、常時ともなれば流石に疲れる。


医者が何かを言って両親が間に受けたと言う経緯だろうと思う。


医者の検診は現代医学に近しいもので、魔法は使わない様子。胸の音と口の中を調べられて、手で熱を計って終了。5分も掛らないで終わった。


私自身、異常は感じないが言語能力が発達していないためにそれを伝える術が無い。疑問として『コイツらは何を心配してるんだ?』という不安だけが残った。いや、流石に医者まで呼ばれると流石に心配になる。


そして、1つの問題が、両親の何れかが常に部屋にいる為に攻撃用の魔法の構想を練る為に使用していた基礎となる魔法を出しっぱなしにしておくことが出来なくなってしまう。


「イアちゃーん。こっちにおいでー」


甘ったるい声で母ローザが私を手招きする。基本的にはこの年齢の赤ん坊は犬猫程度の知能と認識がある。手招きしたら未だ補助なしでは覚束ない歩きかハイハイで寄って行く位は出来る。


仕方ねぇなと思いつつも母ローザの元へと歩み寄る。家族は好きだが魔法練習の邪魔をされるのは嫌いだった。


私は抱き上げられると母ローザに連れられて窓の景色を一緒に見る事となっる。部屋の換気のためか窓が開けられると肌寒い風が室内を循環した。


寒いので魔法を使って暖をとる。

空気に圧力を掛けて熱を発生させて外の寒い空気と混ぜて丁度良い温度にしたら部屋を循環させる。

エアコンから発想を得た空気温度調整魔法だ。現代人には馴染み深いし薪や火を使わないので一酸化炭素中毒にならない。


基本的に暖炉だけだと部屋全体を暖める事は出来ない。火の温度は上昇するが暖炉には換気の為の煙突が付いている為、殆どの熱は煙突から出て行くのだ。現代人の感覚では非効率で良くない。


「あら?暖かい。イア!?魔法を使ったの?」


母ローザが妙に慌てる。


「だあ(おう)」


取り敢えず返事をすると、それを聞いたのか聞いていないのか母ローザは私を連れて部屋を飛び出し、父ユリウスの元へと向かって行った。


自分の部屋から出るのは初めてだったので新鮮だ。

雰囲気は城というよりも館である。敵の迎撃拠点と言うよりも寧ろ過ごしやすくする為の工夫が随所にされている。階段は上り下りがしやすいように緩やかな勾配で手摺も細工が施されて玄関口には青を基調とした模様のカーペット。

灯りは蝋燭なのか、廊下には燭台が等間隔に並べられていた。


「あなた、イアが魔法を!」


父ユリウスの執務室は2階の中央の部屋にあった。入室すれば書類の山。覗き見ても残念ながら読み書きは出来ないので全く理解できない。


「イアの顔を見せてくれるかい?」


父ユリウスが私の頬に手を当てて体温を測っている。


「うん、顔色も悪く無いし大丈夫だよ。体調も悪くなさそうだ」


「あうー(凄いだろ?)」


取り敢えず魔法を使う事を自慢する。便利なのだから使わない意味がない。


「ローザ、大丈夫だよ。イアは『選別』しても生きれるんだと思う。赤子の魔力量で魔法は使えないからね。生まれつき魔力量が高い子供なんだよ」


へーそうなんだ。

私はてっきり、現象に対する理解度で使用魔力量が変化するのだと思っていたが、父ユリウスの文言だと生まれつき個人の魔力量は決まっていて、発動する魔術の使用魔力量も決まっているらしい。


単純に魔力量が多ければ色々な魔術を使えると言う事。

RPGゲーム方式だ。


「・・・そうね、あなたの子供だもの」


母ローザは顔を俯かせて気落ちした様子。何故?


「ローザ。君との子供だ。忘れないで欲しい。君は僕の妻なんだ」


「ユリウス・・・」


「ローザ」


そして、何故か見つめ合う二人。


コイツら子供をダシにしてイチャイチャし始めたぞ!


「あぶー!(私の居ないところでやれ!)」


「ふふっ、そうだね。イアも大切な家族さ」


「イア・・・!」


母ローザが抱きしめる力を強くする。


そうじゃないんすよ。

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