第7話 才能

私は1歳となった。

喃語から簡単な単語を話すことができるようになり、自分で立って歩けるようになった。精神と身体がうまく噛み合っていなかったのか、この年齢になるまで言葉を理解できても話すことができなかったのだ。


また歩行に関しても魔法の存在を知る前と後とで劇的な進化を遂げた。

現在私は暫定的に魔力と名付けたこの力を使って前世で言う補助ロボットの代わりとしている。


足腰の関節を支えることによって姿勢の改善と筋力の補助及び補強を行うことで通常の子供よりも長時間歩くことができるようになった。


魔力は、腹の丹の部分から全身に行き渡るようで、血液循環のように自分で意識しての操作はできない。


丹の部分に魔力があると仮定したのは、単純に成長するに連れてその部分が暖かい熱を帯びていったからである。

おそらくこの部分が血液で言う心臓の部分にあたるのであろう。


また、血液のように自身で操作できないとは言っても『顔が赤くなる』と称されるように一定の反動により一定の反応を見せることがある。


経験から魔力は感情や興奮といった精神の動きに連動して高まりを見せる。

精神の安定こそが魔法を扱う上で重要な要素となる事は想像に難く無い。


さて、此処で私の1日のルーティンを思い返したい。


好きな時に起きて腹が減ったら母の乳を吸うか野菜と麦の粥の離乳食を食べる、魔力の補助を受けて部屋の中を歩き回りながら思考し、寝る。


歩けることによって一定の自由はあったが未だ部屋の外から出ることができない。


窓の外から見える庭園の花々を楽しみ、遠くから聞こえる鳥の鳴き声を聞いて昼寝。1日に3度は寝るし6回は食事をする。


中年の女中であり、私の世話係のレミーが私の様子を逐一見張っているが彼女の用意した子供用のおもちゃには1度も触っていなかった。


歩き回るのは筋肉を早めに付けるためで、運動中は血液流量が増えるので覚えが良くなる。

「運動能力が低いほど頭が悪い」と言う前世でのスポーツ科学は多くの人間が知るところだ。


歩くのに飽きたら簡単な魔法を使う。

私の魔法の解釈は「想像力を過程を無視して創造するもの」である。


魔法使いが火の魔法を使う際、木が燃えるのを想像するのとジェット燃料が燃えるのを想像するのとでは火力がまるで違う。


では、目を奪われてその場で呆然とする程の光を見てそれを万人が真似できるかと言われればそうでも無い。


蝋燭での灯りは不便だろうとレミーの目の前でLEDの光を見せたが、その後レミーが魔法を真似する雰囲気がない。


燃え移らずに広範囲を明るく照らすことができる明かりを使わないのは不合理だ。つまり、使わないのでは無く使えないのだろう。


魔法は過程を無視するが過程を知っていなければならないのではないだろうかと言うのが私の見解だ。


魔法を使うに伴い消費される魔力の量は過程を細かく想像すれば少なくなり、範囲は自身の空間認識能力に依存する。空間は縦横奥の3軸から成るが視界に入る映像は平面として脳に入力される。

縦横はある程度認識できても奥行きを認識するのは訓練がいる。

ボクサーはジャブで相手を牽制しながら距離を測るが、魔法の最大の強みである遠距離攻撃の特性を活かすには腕が届く範囲は短すぎる。


という事でGPSを参考に空間認識魔法を造った。

GPSは衛星を使用して自分の現在地を3軸で認識する物であるが私はこの国の地図を持っていないので上空から陸地を確認して自身の場所を基点とし半径50kmの映像を視界に映す事で空間認識の補助としたのだ。


基本的には生活に便利な魔法を創りつつ燃費の良い攻撃魔法と防御魔法を創り私の1日は終わって行く。







僕がローザと一緒に執務室で談話をしているとノック音がする。

入室の許可を出すとイアの世話係のレミーが慌てた様子で報告した。


「ユリウス様!イア様が魔法をお使いになられました!」


「なんだって!イアは無事かい!?」


貴族の中には幼少の頃から魔導書を見せて魔術を早期に学ばせる家が有る。


しかし、子供の魔力量では大した魔法は放てないし、魔力量の少なさから自身に宿る魔力の上限を超えて魔法を使ってしまって、生命力を消費して死んでしまう事も多い。


一部の貴族は沢山の子供を産む事で魔法の適性がある子供を『選別』し魔導貴族と呼ばれるに至った家も有るが、僕の妻はローザだけだ。


ローザが命賭けで産んだ愛娘を『選別』する気は無い。


「目に見える異常はございませんが、一刻も早くお医者様に見せるべきだと具申致します!」


「そうだね、一番近くの医者を呼ぼうか。レミーは詳細を」


レミーの報告を聞いて少し安心した。魔法で生命力を使うと血の気が引いて顔が青褪める。

魔獣討伐で騎士たちが命懸けで魔法を使用して亡くなった者がいたのだ。


僕は使用人に早急に医者を呼びつけるように命令を出してローザと共にイアの部屋へと向かった。


イアの部屋に入ると部屋全体が白く明るい光で満ちていた。


「えっ?」


火の光量じゃない。松明のように煤も出ていないし、広範囲を照らしている。じゃあ、この光は?


「新しい・・・魔法?」


ローザが呆然と呟く。

魔法は魔術書から学ぶがその種類は多くない。4大属性毎にそれぞれ20種前後で、戦いに関わる人間なら使えないまでもどのような魔法か位は把握している。

それは魔法の効果範囲から逃れるためであり、魔法使いの詠唱時間から大体の規模を測るのだ。

高級騎士である僕は当然、全ての魔法を暗記しているし、この部屋を照らす光はどの属性にも属さない物だと直ぐに解った。


「多分・・・イアのギフトは、新種の魔法属性。これは大変な事になるね。


それは、新しい可能性。新しい脅威。

新しい価値。


魔法は現象だ。

水が上から下に落ちるような皆が知っているような当たり前。

新しい属性とは歴史上、全ての人が見逃し続けていた『当たり前の現象』と言う事。


それは、世界を見る視点が違うと言う事だった。僕たちの見ている世界とイアの見ている世界は違う!


1歳になったばかりの赤子が示したギフトは世界に1つだけの貴重すぎる才能だった。

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