第3話 無くしたモノ

私の右手にはいつも君がいた。

前世で片時も離れていなかった。共に笑って共に泣いた。それなのに、どうして私を置いて行ったのか?


「・・・ちんちん無いなった」


生まれたばかりの私は今、一人で現状を確認していた。

生後数時間の赤子。意識は成人男性のもので前世に起因する思考能力。


鏡が無いので顔は見えないが股にぶら下げていた友人がいない。


いや、普通に困る。

部屋を見れば前世に近い時代では無く、明らかに欧州の装い。部屋を照らしているのが蝋燭な時点でお察しである。


ゴワゴワとしたベッドはマットレスさえ敷いていないし、掛け布団はチクチクと私の肌を刺す。


過去、どの国でも女性は穢れたモノであると差別されてきた。これは月経が原因で股から血を流すのは宗教的にも世属的にも汚いものであり、現代に於いても女性の月々の苦労は察して余りある。


はっきり言うと、どんな時代も男性に生まれた時点で勝ち組だ。男性の苦労は男性しか解らないと言うのは確かだが、女性よりも圧倒的に苦労が少ない。

今後を思えば心が折れそうだが部屋が立派な事から農民の生まれでは無いと判る。


下手したら魔女狩りに会う可能性を考えれば農民生まれでないのは嬉しい。


さて、基本的に赤ん坊に出来ることは無い。と言うか何も出来ない。

赤子は寝返りさえ打てないのだ。思考は明瞭で有れども身体が付いていかない。


つまり、暇すぎる!


夏の長期連休は楽しいが、自分で動ける様に成長するまでの4、5年間の休日は楽しいを通り越して苦痛だ。


そういえば、脚を骨折して1ヶ月程入院した事が有るが、暇で仕方がなかったな。


時間を浪費しないためには何が必要か。私はそれを考えながら眠りに落ちて行った。

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