第2話 転生⇄転性

死は水のようだ。暗く冷たい水底へと沈んでいくようで永遠に浮き上がることのない泥沼の様だった。

意識有れども動く事は出来ない。

自身と外界を隔てる水は外からの断続的な衝撃を伴い私を刺激する。


永遠とも言える時間を水の中で認識する。前世の走馬灯であろうかボヤけた声が聞こえた。


そしてひと筋の光。水中の浮遊感から解放されて頭を下に両足を何者かに掴まれている。恐怖感から目を開ければ巨人の様な女。そして、尻を叩かれた。


「おぎゃぁ!」


「あっ良かった。やっと泣きました!ローザ様。おめでとうございます。女の子ですよ」


張りの良い女性の声が聞こえたと思ったら、次に弱々しくも澄んだ声が聞こえた。


「私の子・・・抱かせて頂戴」


茶髪で恰幅の良い中年程の女性が宙吊りになった私を、ベッドに横たわり衰弱している女性の元へと手渡す。

現状に混乱しているが、私は死して生まれたと言う事だろう。

赤子の脳は小さく疲労しやすいらしく、情報の多い現状に睡魔が襲ってきた。


「あら、疲れて寝ちゃったのね。わたしの子」


「ローザ様。この子のお名前は?」


「そうね・・・聖樹の女神、ティターニア様からお名前を頂戴して、イア。イアと名付けましょう」


「イア様ですね。ユリウス様もお喜びになるかと思いますわ」


「ええ、あの人も無事に帰って来れば良いのだけど」


「辺境伯を賜わったお方です。あの方が負ける筈が御座いません」


「ええ、それでも心配よ。魔王級の魔獣の討伐なんて、普段使わない魔剣まで引っ張り出していたのだから」


「ご自分よりも旦那様を心配するのは奥様の美徳です。しかしながら、先ずはローザ様の体力の回復を。ユリウス様が帰ってきた時に万全の状態で無ければユリウス様に余計な心配をおかけすることになりますわ」


「そうね、私も、少し眠ります。イアをよろしくね、レミー」


「承ります。お嬢様」


「もう、お嬢様なんて歳じゃないわよ。貴方と2つしか違わないのだから」


レミーは笑って赤子を柔らかい布で包む。ローザ様は疲労から寝てしまった。

英雄に見初められた古馴染みの妹分は昔から身体が弱かったのだ。血は繋がらなくとも姉として振舞ってきたレミーとしては少しでも体力を回復させて欲しい。

レミーの腕の中で母と同じ様に眠る赤子の頬を優しく撫でる。

きっとこの子は母親に似て美しく、何よりも優しく育つ。

身体の方は父のユリウス様に似て頑丈に育って欲しいなと思いながら、レミーは妹分の部屋を後にした。


そうでなければ余りにも悲しいではないか。


愛しい妹分は少ない寿命まで削って、それでも子供を産んだのだから。

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