since 2001 , 20th anniversary & 20 years after_2020/10/25

     2020年10月25日、日曜日。


わたしは、アリス。

アリス・T・テレス。


合衆国最後の大統領であり、

14歳の最年少大統領であり、

就任からわずか2日で国を滅亡させてしまった任期期間最短の大統領。


そして、紀元前の時代から、この世界と人類の歴史を操り続けてきた匣と呼ばれる72の存在、、、

合衆国が、それらすべてを手にいれることを目的とし、人がそのすべてを体の中に取り込んでも、自我を失うことなく、「来るべき約束の日」までに匣の持つオーバーテクノロジーをすべて引き出すことができるよう、遺伝子操作によって産み出されたデザインベイビーズのひとり。

わたし以外のデザインベイビーズは、体や脳、精神、どこかに欠陥があり、すべて焼却処分された。


わたしは、わたしが作り出された理由とは正反対に、合衆国を滅亡させ、匣をすべて破壊した。


そのために、大好きな日本でできた、大好きな友達の命を奪った。


ひとりは、小久保晴美。


もうひとりは、佐久間ゆりか。


それがふたりの願いだったから。


遺言だったから。





来るべき約束の日は、正確には、審判の日と呼ぶべき時であった。


シュワルツェネッガーの映画における審判の日との混同を避けるために、別の呼称があえて用いられている。


合衆国が、匣を解析した結果、

西暦換算、そして合衆国の首都ワシントンの時刻で、2が13個重なる日付、時刻だとされていた。


つまりは、西暦2222年2月22日22時22分22秒だ。


その日付、その時刻に行われるのは、まさに審判そのもの。


この星にグレート・アトラクターから審判者が訪れるのか、

あるいは、すでにこの星は常にグレート・アトラクターの監視下にあるのか、

そこまではわからない。


人類がグレート・アトラクターと同等以上の科学技術を持つ文明となっていなければ、人類はこの星ごと滅ぼされるか、奴隷や植民地に成り果てる。


しかし、グレート・アトラクターに認められれば、いまもなお広がり続ける宇宙の果ての、その先、、、つまりは、宇宙が誕生する前と同じ状態にある、「無」への扉が開かれる。


人類はこの星そのものを方舟とし、グレート・アトラクターに導かれ、無へと向かうことが許される、、、らしい。


残された時間は200年もあるとも言えるし、200年しかないとも言えた。

おそらくは後者だ。


すべての匣を破壊したわたしは、不老長寿の肉体を持ち、おそらくその日を今の姿のまま、迎えることになる。


匣に踊らされ続けてきたとはいえ、人類はあまりに身勝手で、世界は不条理に満ちていた。

そして、その不条理は、一部の権力者だけでなく、すべての人がその一端をになっている。


だから、わたしは、

世界の不条理によって作り出された存在として、

すべての匣を破壊した者として、

すべてを知る者として、

そして、世界の不条理の一端を担う者として、その日を見届けるつもりだ。



合衆国の滅亡と共に死んだはずの私の突然の来訪に、この国の首相、阿倍野三久須はとても驚いていた。


私は彼が匣の存在すら知らされていなかったことに逆に驚かされたけれど。


私は日本に帰化することを許され、今では草詰アリスという名を名乗っている。


近々、ゆりかの妹のももかと同じ中学校に編入する予定だ。


同じ学年の同じクラスに入れるようにした。


同じマンション、同じ階に部屋を借りた。


わたしは、ももかをゆりかの代わりにしようとしているのかな、、、


ゆりかが死に、匣が失われたことによって、佐久間弘幸の存在は消えてしまっているはずだった。


彼は、鮎川いちかという、ゆりかの友達の死体と、匣の守護者であるアンドロマリウスの精神をベースに再生された存在だ。

だから、彼はもういない。


佐久間麻衣がいつまたこどもがえりするかわからない。もしかしたら、もうこどもがえりしてしまっているかもしれなかった。


ももかが心配だったから、というのももちろんあったけれど、よくよく考えれば、彼女には雪待がいた。


そして、わたしは気づいた。

わたしは、ももかをゆりかの代わりにしようとしてるんじゃなくて、ゆりかの代わりをしようとしているのだ。


なんのために生まれてきたのか、とか、

なんのために生きているのか、とか、

人には理由が必要なときがある。


全く必要ない人はいないんじゃないのかな。


わたしには、今、それが必要なときだった。


勉強だったり、仕事だったり、自分のためだけにがんばることができる人はたぶんいなくて、誰かや何かを理由や支えにすることで、人はがんばることができる。生きていくことができる。


ゆりかや晴美の命を奪ってしまったわたしは、ゆりかの代わりになることを生きていく理由にしようとしていた。


そうしたら、何十年かは、そのために生きていける。


でも、それは、わたしの願望でしかなくて、、、

棗雪待は、佐久間航は、わたしを知ってるけど、ももかも麻衣もわたしを知らない。

わたしに、ゆりかの代わりをしてほしいなんて望んでない。


わたしは、晴美のように深い井戸の底のような闇に堕ちてしまわないように、ゆりかの大切なママと妹を利用しようとしてるだけ、、、



ねぇ、ゆりか、

あのときのゆりかの気持ち、わたし、ようやくわかったよ。


わたしも、世界の不条理の一部なんだね。











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