三人目 かおる
もうこいつに関しては紹介なんて微塵もしたくないというのは大嘘にしても、それなりに、彼のことを物語るにあたって、些か僕では受け止めきれないような、そんな劣等感を抱きかねないという懸念に今脳内が彩られている。いや、違うか。色彩を奪われていると言った方が正しいかもしれない。
まぁ僕がここまで彼に劣等感を感じるのは偏に彼の人間性と顔とコミュ力が原因だと思う。人間性は正直僕とトントンというか、半分くらい僕なんだけど、やっぱり素晴らしいものがある。半分くらい自画自賛になってしまうのが残念なところだが、ただ実際に彼の思慮深さと視野の広さというのは真似しようと思ってまねできるものではない。一体何を食ったらこうなるのかと思うくらいにいいやつだ。黎明とは違って完璧に近い。黎明が悪いということは決してないのだけれど、流石に彼と同じ土俵に上がるのは無理だろう。
王子様、とも違うし、兄貴ということでもないのだけれど、頼りがいがありすぎる。何を投げてもそれなりに望んだ反応が返ってくる。自在に変形する壁打ちみたいなところがあり、精神的な相談と怪文書を送る先は彼にすると僕は昔から決めている。
今、昔というワードが出たからついでに説明しておくと、彼と出会ったのは数年前。いやだいぶアバウトなのだけれど、正直に言ってどう知り合ったのかはよくわかっていない。あかねつながりなんだろうなということは分かる(やかましくないあかねの方だ)のだが、如何せん当時の僕の知性というのはミジンコにぎりぎり競り勝てないくらいのものだったので忘れてしまった。
ただ当時からめちゃくちゃ人格者だったというわけではないように思う。それなりに優しくて言葉を選べて、素直に謝れるいい子ではあったけれど、こうして完璧な人となりというわけでは決してなかった。何が彼を変えたのかは分からないけれど、変化している今日の彼によって救われている人間は決して少なくないと思う。もしその変化のすみっこにでも僕の影響があったならそれはとても誇らしいことだし、誇らしすぎて矛になるというものだ。
だが気に食わない。その顔面。なんというか、何でもいける。男というか女というか――結局彼の性別は?というクエスチョンに関して僕は、彼の性別はかおるです、としか答えようがない。かっこいいとかそういうのを超えている。カリスマ性がある。この文章を読んだ彼は読みながら『言い過ぎ』とか抜かすのだろうが、ありていに、かつ控えめに言って嬲り殺しにしてあげたい。過ぎた謙遜は人を傷つけるのだということを理解すべきだと思う。これが才能というよりも自分でいろいろ考えて努力した結果だというのが一番ムカつく。文句言えないではないか。
ただ、なんというか、彼に関して僕が語るべきことというのは意外にも少ないような、そんな気がしている。語れることはもちろんある。歌が上手いだとか、筋肉だとか、背を縮めてやりたいだとか、いろいろある。けれどそれに関して、僕の言葉ではなく彼自身に触れて知るべきだと思うのだ。言うまでもなくそれはすべての人物に対して言えることなのだけれど、彼に関しては特に、ことさら、とりわけ僕の文章を入り口やきっかけ以外のなにかにはしてほしくない。
というか変な込み入った事情話すと『みてるぞいいね』に威嚇射撃を受ける憂き目にあうというか、狙撃班にわざと足元の小石をピンポイントで撃ち抜かれているような、そんな目に合うことは目に見えている(ちょっとうまいこと言った)ので、僕が彼に関して語るのはこの辺りでおしまいにしようと思う。
最後に、彼と僕の共通点に関してだけれど、結局のところ、やはりといっていいのか、意外にもと言ったらいいのかは分からないけれど、こうして文章を通して何かを伝えようとするという姿勢だけは似通っている。
きっと僕に彼は影響を受けているし、彼に僕は影響を受けている。互いを喰らい合って構築しあった仲だとは、自信を持って言える。これは数少ない僕の誇りである。
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