二人目 黎明
突然だが、僕は彼のことを黎明と呼ぶことに関して激しい疑念を抱いている。いや、疑念の程度を表す言葉が激しい、という言葉で正しいのかはこの際わきに置いておこうとしてだ。黎明というのは明け方や夜明けを意味する。
いやもう矛盾しているだろう。彼が切り開こうとしているのは暗黒時代であり闇の一世紀だ。勇者よりは魔王サイドにおり、また聖女を狙って日々その牙と股間を研ぎ澄ませている性犯罪者なのである。
まぁそんなことはどうでもいい。じゃあどうしてどうでもいいことを語ったかというと、少しでも彼はどうでもいい人間なのかな、とか純粋無垢な読者どもに植え付けてやろうとしたからであり、つまりは彼の類稀なる人間性に対する嫉妬である。
人間的に優れた、と一口に言ってもいろいろある。例えば頭がいい、例えば性格がいい、例えば運動ができる。彼の場合は性格がいい、に当てはまるだろうか。いい性格をしている、と言いたいところだが、そんなにいい性格はしていないのでここでは自粛することとする。早くいい性格になってくれ。
僕は結構たとえ話が好きだ。彼をたとえ話に例えると――トートロジーじみた物言いになってすまない――主人公である。いや、もう待ってほしい。現実にいる人間とはそれなりに悪意だとか醜さだとか、そういうものが目につきがちだ。だが彼はそうではない。いや十分に醜いと言えば醜いのだけれど、それはただ目に入るだけで目に付くわけではないのだ。むしろその醜さがささやかにあるからこそ、思慮深い言動や行動に人間味と現実味が生じるのである。前にもツイートなんかで述べたかもしれないけれど、彼は馬鹿を気取っているような、あくまで道化に徹しようとしているようにも思えるのだ。そして道化に徹しきれていないところまで含めて道化じみていると言える。分かりにくく回りくどい言い方をしてしまったが、要するに、芸術的な皿ではないからこそ、好きに総菜をよそえるのである。日常遣いで一抹の生活感を残しているそれだからこそ人々は安心して彼に悩みとかそういうのを見せられるのである。もし一枚何千万円もするような芸術的で美しいものであったなら、総菜どころか水さえ湛えるのにかなりの神経を使う。飾らないというか飾れない庶民性が彼の魅力だと言えよう。
彼は意外と謙遜したりというか、自分のことを高く評価していない節があるが、そういったところまで含めて主人公なのだ。
大げさに声を張り上げているように見えて、強弱をつけていたり、ただ暴れているように見えてよく考えて動いていたり。
馬鹿っぽさを演じてその救いの手を握りやすくする、そういった力を持っている子だと僕は思うわけだ。あと顔もかっこいいし。でもこの件に関してはムカつくから今度殴ってかっこよくなくしておくとして。
彼に関して言えば、かおる(どうせ後述することになる超生物)とはまた違った男前なのである。多分モテるだろうし――モテるべきだと思う。人間とは彼のような人間のことを好きになるべきだし、好きになれたほうが楽だろう。
常に百点じゃない。だからこそ安心して勉強を訊ける、そんなクラスメイトに彼は似ているし、実際に僕以外の誰か――例えば彼のクラスメイトにとってはそうなのだろう。
彼はそういう人間であり、そうあり続けてほしいと思う。
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