第九話 帰還とトラブル 6


――30分ほどで準備は終わり、ランクAの護衛2人を連れて影兎達は馬車に乗り込んだ。それから王都を出て街道を進んでいき、山々を越えた先に1つの街が見えた。


「わぁ~!」


街の奥を見ると海が広がっている。僕は“異世界”だという勝手な理由で、海は汚れているのかと思っていた。でもここの海は遠くからでもハッキリ分かるくらい、凄く蒼々しくて反射した太陽の光が眩しいくらいきれいだ。


「前方に見えていると思いますが、あれはシースー領という漁業が盛んな街です」


護衛の1人が教えてくれた。もう1人はこの馬車を引っ張っている馬の操作をしているため、前にいる。


「王都が凄く大きく思えるね」


僕は咲夜に言った。つもりだったけど、咲夜は外の景色に夢中だったみたいで僕の言葉には無反応だった。その代わりに


「……、王都はこの大陸で3番目に大きいと言われていますからね」


同じ護衛の人がが言葉を返してくれた。僕は「へぇ~」と返すことしか出来なかったけど、あの王都よりもでかい国があるのかと僕は思った。なんでも、王都の隣の山を越えると物凄くでかい湖があり、アスタリア王国はその湖の3分の1ほどの大きさらしい。それに、その湖には災害級の魔物もいるらしいから一般人も冒険者もあまり近づかないのだとか。


「そろそろシースー領につくので、頭を引っ込めておいてくださいね」


咲夜は窓の外に出していた頭を引っ込めて、普通に座った。そして、あることを口にした。


「街の外に魔物とかっていなんいんだ?」


「言われてみれば確かに。見かけないね」


「シースー領の周囲で魔物を見ることはほとんどないですね」


影兎はもちろんのこと、護衛の人も曖昧な返事だった。だがその真意を探る前にシースー領に着いてしまった。王国もそうだったがこの街もかなりの活気がある。露店で買い物をする親子、フードを目深に被っている人……明らかに怪しいな、おい。声を掛ける勇気なんて僕にないんだけどね。あ、鑑定してみよ、


影兎はその男を鑑定した。一瞬視界が砂嵐っぽくなったが目にゴミが入ったのだろうと、そのときは特に気にしなかった。


  職業 不明  不明 Lv67 状態 隠密

 Hp不明 魔力4350/5640 素早さ453 筋力240 知力540

 属性 不明

 スキル Mp上昇B 物理攻撃無効 戦闘術A 隠密B 鑑定A

     鑑定阻害A 隠蔽A

 魔法 初歩魔法AA 陰属性魔法S


え……なに、これ? 職業、名前、属性不明……こんなこと一度もなかったのに。それにほとんどのスキルと魔法の熟練度がAだ。僕でも分かる、関わったら一番ダメな奴だ。


フードを目深に被っていた圧倒的なレベル差の化け物は、座っている太った男性と一言、二言話した後そのまま路地裏に姿を消した。


影兎はホッと胸をなで下ろし護衛の人と咲夜の方を振り返った。どうやら、この街から帝国に行くためには海をまたがないといけないらしいので、定期便の船を待つことになった。そのため、長居はしないが馬車から離れすぎない程度に観光してきても良い、と護衛の人に言われた。


影兎はさっきの出来事を早く忘れたいが為か、柄にもなく少し強引に咲夜を引っ張って近くの露店に向かった。


         ◆ ◆ ◆

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