第九話 帰還とトラブル 5


――昨日、1人の青年があたいらのギルドを訪ねてきた。なぜかは解んないが、かなり慌てた様子でな。あたしはその場にはいなかったからよく分かんねぇんだが、助けを求めに来たらしいんだな。で、何かあったらいけねぇからランクS2人とランクA1人連れて、その場所に向かったんだ。するとどうだろう、路地裏にお前ら2人が倒れてるじゃねぇか。何があったのか青年に聞こうとしたんだがもう居なくなってたらしいんだ。


「――ちょ、ちょっと待って……、小さい……小さな女の子がいたと思うんですが」


おかしい、あの時僕たち以外に奴隷の娘がいたはずだ。


「女の子? あたしは知らねぇな。そんとき行った奴に聞けば早いんだが……」


その時、サイルさんの後ろの方からノック音が聞こえた。


「――トーリッヂ、指名依頼だ。要るか?」


サイルさんはその人に入るように呼びかけた。その人はサイルさんの後ろまで来ると封筒を取り出し、差し出した。サイルさんは封筒を受け取ると、封を切った。それと同時にその人はこの部屋を後にした。


「……なぁ、お前ら2人がこの依頼受けてみるか?」


突拍子もないセリフに俺は、一瞬どうしたらいいか分からなくなった。僕が困惑したままでいると


「あぁ……、まあ。丸一日寝て身体も訛ってるだろうから、準備運動……肩慣らしみたいなもんだ」


ああ、なるほど……。


「え、丸一日?! そんなに寝てたんですか?」


僕は恐る恐る訊いてみた。


「ん? ああそうだ。今日は1月8日、でもって昼辺りってとこだな」


サイルさんは窓の外、太陽を見ながら言った。


「で、どうだ? この依頼受けてみるか?」


そう言いながらサイルさんは指名依頼の紙を差し出した。僕は受け取ると依頼内容を読み始めた。



 依頼 魔物討伐 デス・サーペント

 場所 帝国東地区

 日時 1/9 昼

 報酬 金貨五枚

 指名 サイル・トーリッヂ

 その他  救援(可能) 追加報酬(有り)



僕は一度顔をあげ、サイルさんを見る。サイルさんが「どうだ?」と訊いてきたので、俺は答える。


「……サイルさんは来ないんですか?」


サイルさんは少し顔をしかめる、それから答えてくれた。


「あたしはちょっと用事があるんだ。代わりの奴連れてくから安心しろ」


僕はホッと胸をなで下ろした。流石に2人だけでは心細いので、ダメ元混じりで訊いてみて正解だった。僕が一呼吸入れ安堵していると


「……『護衛で』だけどな」


まさかの追撃だった。先程までの安堵はどこかしらへ飛んでいき、僕は驚愕した。


「そんな心配か?」


「そりゃあ、サイルさんくらい強い人を指名するんですから……」


僕が落胆して落ち込んでいると


「ま、大丈夫だろ、護衛もいるんだから」


まあ、それもそうなんだけど……、昨日の今日だし、また昨日みたいなことが起こったら……怖い。でも日時は明日なんだよな……、今日中に決めないと


「ああ、言い忘れてたんだが帝国まで半日は掛かるからな」


「え?」


僕は一瞬何を言われたのか分からず(なぜか)口を開けたままサイルさんを見つめた。


――それからは大変だった。まだ咲夜は寝ているままなのに護衛の人を連れて帝国へ出発しようとするし、僕は心の準備が全く出来ていないのに支度をしろと急かされるし、でギャーギャーしていた。


「……あれ? えっちゃん?」


そんなことが2時間も続けば流石にうるさくて、咲夜も起きてしまうだろう。案の定起きてしまったのだけれど。


「咲夜! うるさかった、よね?」


僕は嬉しい気持ちと、騒がしくして病人? を起こしてしまった罪悪感で神妙な気持ちになりながら、訊いた。でも咲夜はそんなことも気にしていなかったか、首を横に振り布団から出ようとした。


「……途中からだけど話は聞いたから。えっちゃん、帝国に行く準備するよ?」


……。こうなるのか、俺は少し複雑な気持ちのまま支度を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る