第九話 帰還とトラブル 7


         ◆ ◆ ◆


「……たく、この時代に来たは良いものの……頼る奴がいねぇじゃねぇか」


男は路地裏を歩きながらブツブツと一人で文句を言っている。路地裏を抜け、大通りに出るまえに男は目立ちたくないのか、どこからともなく取り出したフードを深く被り大通りに出た。しばらく人混みの流れに沿って歩き、ある場所に着いた。フードコートの外、端のテーブルに座る大太りなひげを生やしたおっさんに男は背を向けるようにして隣に居座った。


「お前がフェルメト商会の代表か?」


男は声を潜めて訊いた。大太りなおっさんは一つ頷くと懐から手紙を出し、男に渡した。男はその手紙を一瞥すると、手紙に対して何かのスキルを使った。男は影兎の視線に気がついたのか、影兎のことを鑑定念写しておっさんのもとを去った。

男は鑑定念写した、影兎のステータスを見ながら路地裏を歩いている。


……、職業が『不明』じゃなくて『?』ならあの組織にこいつが入ってることは多分ないだろうな。それに鑑定もしてきたしな、勇者の類いなのは間違いねぇな。隠蔽スキルのおかげでほとんどのスキルや魔法は隠してるが、ちょいと危ねぇかな~。



『(どもです、どもです、みんな久しぶりぃ~! 『隠蔽スキル』の解説をするよ)


おまえ、なんで居るんだよ?


(居ても良いでしょ~? ほとんど見てるだけで暇なんだし)


てか、どうでも良いんだけどな。さっさと解説してくれ


(言われなくともそうするよ~『隠蔽スキル』はね、自分のステータスから表示させたくないスキルや魔法を『隠蔽』する事が出来るんだ。そしてs……危ない危ない、こいつの名前を言うところだった)


ん? ああそうか、この時代にまだ俺はいないからな


(そういうことー。で、こいつの『隠蔽スキル』の熟練度がAなわけよ、熟練度Aって結構凄いのよ。熟練度Cからスキル、魔法以外にHpや魔力の数値を隠すことも出来るようになるんだよね。でも便利だからって良い点ばかりだけじゃないんだよね~。まず第一に、

このスキルを獲得するためのスキルポイントが高い!

第二に、

隠蔽できる数が決まってる!

第三に、

『隠蔽スキル』自体を隠蔽することができない!)


ほんっと、熟練度上げねぇと使い物にならねぇスキルなんだよなぁ


(そう! だからこいつは熟練度をAまであげてるんだよーね)


そうだよ、でいつまでここに居れば良いんだ?


(そう焦らず、さ。……それで、この時代に来たと言うことは……そう言うことなんだよね?)

自称神の声のトーンが下がった。


気付いてたのか。まあいい、多分お前の思ってる通りだ


(そうか……これは少々厄介なことになったな。今後の方針を改めるべきか……いやそれだと一回目に支障が出る危険が――)

自称神はブツブツと拳を顎においてつぶやき始めた。


……俺はそろそろこの精神世界から抜けるが良いか?


(あ、ああ……………。しかし、困ったな……あいつを見かけたからって、精神世界この世界に連れてくるんじゃなかったよ)


自称神は苦笑しながら顳顬こめかみをポリポリかいた。


(みんなもよく分からない話でつまらなかっただろうし……元に戻すね)』



はぁ。あいつのせいで何考えてたか忘れたじゃねぇか! たく……。そういえばもう一つこの時代でやらなきゃならねぇことあるんだった……、もたもたしてる場合じゃねぇな。

男はすぐさま転移魔法を使い、シースー領から消えた――。


         ◆ ◆ ◆

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