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 トゥルハン帝国で年が明けたばかりに起こった騒動は、国内外問わず、世を驚かせるには十分すぎるものだった。

 真冬だというのに、ルーシ大公国南下の情報が周辺諸国へと広まり、それを迎え撃つために国境付近にトゥルハン帝国の名だたる将や、世界最強を謳われていた・・常備歩兵軍イェニ・チェリが詰める最中、まるでその隙を衝くように、それは決行された。

 【黄金の鳥籠カフェス】に幽閉されていた前・皇帝スルタンのルトフィー一世が、第四宰相ヴェジール・ラービーのユーフス・パシャの協力を得、弟であるマフムト三世への政変クーデターを成功させ、再び帝位へと返り咲く。

 一瞬で後詰支援を失った前線の軍人官僚カクプルたちは、展開を解かざるを得なくなり、――同時に、ルトフィー一世がルーシ大公国へと正式に和議の申し立てを行った。

 後に、【ルィム騒動】と呼ばれる事になるその事件は、実質、戦闘らしい戦闘もないままに、引き分けという形で幕を閉じた。



 そして、冬が過ぎ、春が来て――夏を迎え、秋に至る。

 再び訪れた鈍色の曇天から、穏やかな風が新緑を揺らすようになり、空が高く持ち上がり、そこに幾重にも上へと伸びる大きな雲が鎮座する。

 そして、綿を千切ったような雲が浮かぶ空に、スゥ、と涼やかな風が吹き抜けた。

 季節は巡る。

 くるり、くるり、季節は巡る。

 身を切り凍えるような季節から、陽射しに微睡むようなそれへと。

 そしてその鋭さに影が地面に焦げ付くような季節から、木々が身に纏う色を変えるものへと。

 季節は巡る。

 くるり、くるり。

 季節は巡る。

 くるり、くるり、と――。

 季節は、巡る。



 その後、ルトフィー一世は、トゥルハン帝国の大きな特徴のひとつともいえる後宮ハレムを廃止し、すでに既得権ばかりを重視するようになっていた常備歩兵軍も解体。そして、近隣諸国に近い軍事化を進め、「新しい秩序ニザーム・ジェディード」と呼ばれる組織を新たに立ち上げた。

 そして、政変の混乱による孤児や怪我人、病人のために、早急に各地にあったモスクを解放。

 また、今までは軍人のための機関しかなかった教育方面において、市内の子供たちのため学校を建設。

 恩恵改革タンジマートと呼ばれる新たな試みを、次々に打ち出していく。



 彼が、周辺諸国を騒がせた、あの政変クーデターを起こしたあの日。

 季節は、巡った。

 二度、巡った。

 彼が、トゥルハン帝国最後の皇帝として再即位してから、早二年が経過していた――。

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