3-3 ☆
白く華奢な身体が、びくっ、と肌を震わせた。
細い腰を抱いていた腕をゆるりと解き、感触を確かめるように、指の腹で白い肌へと口吻けて行く。つるりとしていながら、しっとりと滑らかで柔らかなその肌は、極上の一言だ。
トゥルハン帝国の女人は皆、身体全身を脱毛する習慣がある。
恐らく彼女の顔立ちなどから察するに、元よりさほど体毛は濃くはないのだろうが、
けれど、昂る情欲のままに触れた肌は、あの時感じたもの以上の熱を、自身に与えてくる。
ごくり、喉が上下するままに、ふんわりとした双丘へと指を辿らせていくと、緊張からか少女の吐息が落とされた。やわやわとしたそこを、下から掬うように揺さぶると、再び漏れたその吐息に、甘さが混じる。
「柔らかい、な」
「んっ、ぁ……い、言わないでよ……」
バカ。
語尾が鼻にかかった声になったのは、胸を弄んでいた青年の手のひらが、その胸全体を転がすように触れたからだろう。つんとした硬い感触は、彼女の胸の頂きにあった淡い飾り。
ルトフィーが捏ねるように胸全体を揉みしだくと、色づく頂きが刺激されるのか、甘い吐息がぴくぴくと波打つ白い肌と共に耳朶を舐める。ちゅ、ちゅ、と少女の首筋へと口吻けている自身の息が、どんどん荒くなってきていた。
「ル、トフィー……っ」
胸の裡で荒れ狂う衝動に任せて、手のひらの中の柔らかなものを思う存分揉み、その頂きを押しつぶしていた青年へ、少女から声がかかる。鎖骨のくぼみへ舌を這わせていたルトフィーがちら、と
青年は胸を弄ぶ手をそのままに、自身の名を呼ぶ口唇へと再び口吻けを落とす。両手を拘束していた手を解き、彼女の髪を掻き抱きながら手の動きに合わせ、開かれた口の中へと舌を入れた。
味わうように絡ませると、紅を刷かずとも色づく口唇が、ツ、と、どちらのものとも知れない唾液に濡れる。解放された少女の手が、ゆるゆると青年の首へと回された。
手のひらの中で主張を強くするその頂きを、指できゅ、と摘まみあげると、ルトフィーの口内にくぐもった喘ぎが水音と共に響く。びくん、と背が軽く撓り、少女の足が既に鎌首を擡げている青年の下腹部へと触れた。
「……っ」
流石は、後宮入りするために育てられた女である。
たった今自分の足に当たった
ヒュマシャは身体を僅かに硬くすると、青年へと縫い止めていたその濡れた宝玉を気まずそうに横へとずらしていく。
瞬時に色づいた頬の紅潮は、胸の刺激だけのせいでない事は明らかで――。
(おい……ちょっと待て)
それは、ズルいだろう。
男に突然圧し掛かられても、散々喚ぎまくった挙げ句、言い放った台詞が「下手くそ」やら「準備してからでないとならない事を知らないのか」であったり。
日頃、ケラケラと口を開けて笑い、足で扉を開けたり、寝そべったままの状態で虫のように移動したり。
絵に描いたような大雑把でガサツな性格である事は、確かだと言うのに。
それでもいま、彼女の目尻に走る赤は。
潤み始めた瞳が、逸らされたその、理由は――。
ルトフィーの目尻も、ヒュマシャに釣られた様に朱が走る。
(やばい)
何だそれ。
常日頃のように、ふてぶてしくしてくれたらよかった。
それなら、まだ興奮する自分を手のひらで泳がせていられたのに。
少女の長い睫毛が、ふる、と震えていた。
先ほど散々吸ってやった口唇が、何かを紡ごうとして――けれど、きゅ、と結ばれる。
(やばい)
かわいい。
かわいすぎて、たまらない。
一瞬で、脳が沸騰する。
自制心が、あっという間に溶けていく。
理性が、あっという間に悦楽の淵に落ちていく。
ルトフィーは、ヒュマシャの細い顎を捉えると、無理やり自身へと視線を戻させた。そして驚きに目を見張る少女へと、食らいつくようにもう何度目になるかわからない口吻けを落とす。
親指の腹で、ころりと尖る胸の先をくにくにと転がすと、貪る少女の口内が甘い吐息を彼の舌へ絡めてきた。首の後ろにカッ、と熱が走り痺れる。
ちゅ、ちゅ、と口唇を頬、耳朶へ這わせ、そのまま首筋から柔らかな胸元へ。まだ弄っていないはずの片側の胸もまた、その淡く色づくそこをぷっくりと勃たせている。
ごくり、と知らず、喉が上下した。
そこを口唇の間に食むと、白い身体が再び撥ねる。
「んッ、ァ……、や、んんっ、ア、は……んぁ」
「……ッ、は……ッ」
身体の下で少女の身体が踊るたび、張り詰めた下腹部に刺激が走った。ぐ、と腰を押し付けると、興奮しきった脳が愉悦にびりっと痺れる。
舌の先で、指の腹で、胸の飾りを転がすたびに、どこまでも甘ったるい声が降ってきた。日頃の地声は、さほど、高いわけでも細いわけでもなく――この後宮で好まれるような可憐な声質をしているわけでもない。けれど、いま自身の耳朶を犯す声が、どんな美声よりも気持ちいい。
「ン、ぁ……は、んッ! ルト、フィ……っ、や、ァ……」
「
「……そうじゃ、んァ……、なく、て……っ」
「じゃあ、いいだろ」
「だって……、んっ、んっ、ァ、……んっ、あたしの、小さい、し……っ」
「……アホか」
その中には、それこそ彼女が言うところの豊満な肉体を持つ女も沢山いた。
性を覚えたての若い身体は、目の前に投げ出される女体に毎度無反応だったわけじゃない。人並みに性欲もあるし、いくら理性が女を拒絶しても、身体が反応する事がなかったわけではなかった。
(でも、嫌いだった)
触れることさえ、嫌だった。
子を授かった後、権威欲に溺れ、どこまでも残忍になれる女たちが。
今日、隣で笑い合う女の胎の子を、明日は亡き者にしようと企む女たちが。
兄を殺した母が。
その兄と同じような存在を、また作ろうと女を送り込んでくる母が。
そんな母の、選んだ女たちが。
(大嫌いだった)
だから、召した後はいつも奉仕させて終わるのみ。
彼女たちを孕ませる事のないように、口で、手で奉仕させ、精を吐き出すだけの作業。 そこに魅惑的な女体があっても、触れたいとは思わなかった。
けれど。
――じゃあ、なんであたしには触るの?
かつて、少女から向けられた問い。
――触りたいから。
触りたい。
口吻けたい。
吐息を絡ませ、その奥の、熱を貪りたい。
肌に触れたい。
白い肌に、口吻けたい。
「ア、や……ァん……っ、ふ、ァ……や、んんっ」
甘い吐息が、鼓膜を嬲る。
脳内が淫靡な熱に犯され痺れた。
(かわいすぎだろ……)
かわいい。
たまらなく、かわいい。
全てを征服して自身で染めてやりたくなるほど乱暴な気持ちと、砂糖水に浸しているかのような甘さでぐずぐずに溶かしてやりたくなるような気持ちと。
相反する想いが、胸の中をたぷりたぷりと満たしている。
(かわいい)
いとしい。
たまらなく。
くだらない軽口で笑い合う日々も。
柔らかな日差しの中で、微睡むように過ごす時間も。
白い肌も。
赤味がかった金の髪も。
(すきだ)
口吻けた時の、熱の熱さも。
快楽に、痩躯をくねらせるその様子も。
潤む瞳も。
甘い吐息も。
何もかもが、いとおしい。
(すきだ)
好きなんだ。
こいつが。
(たまらなく、好きだ)
降参するかのように認めた想いの名を、捧げるように少女の肌に刻みつける。
音に出せない想いが、双丘に紅い花となった。
胸の頂きを可愛がっていた指を、身体の線をなぞるように回り道させながら薄い腹部を辿り、足の付け根まで滑らせていく。何をされるか気づいたのか、咄嗟に閉じようとする膝を、自身の足で割るとルトフィーは上半身を起こした。
本来、あわいがあったはずのその丘は、脱毛されているためまるで幼子のようにつるりとしてその形を顕わにしている。その中心へと指を差し込むと、熱い蜜がとろぉりと指に絡みついた。
「ン……っ、ァ」
柔らかな内腿が震えたのは、恐れのせいか、それとも――。
青年の腰に巻いた
その、瞬間――。
「ルトフィーさま……っ! 申し訳ありません、緊急の……ッ」
バタン、と大きな音を立てて、
蒸気に熱された部屋に、すぅ、と外気が入り込む。その大声と、乱暴に開かれた扉の音に、大理石の上の男女は共にビクッ! と大きく肩を揺らしながら視線をそちらへ向けると、そこにいたのは、この後宮を司る任を与えられた宦官――その長である
カランフィル、その人だった。
「ぎゃぁぁあぁああ!! って、ちょっとこれナニっ!? 事後っ!? 未然!?」
「…………この気まずい空気に、察しろ」
「あ、良かった! 未然なのね!! って、ヒュマシャ!! こんの小娘ッ!! 浴場でルトフィーさまに、アンタ、ナニしてんのよ――ッ!!」
「はぁああ!? そこあたしが怒られるところじゃなくない!?」
先ほどまでの濡れた空気はどこへやら。
ルトフィーの下で甘く溶けていた少女の怒声が、大理石の部屋で甲高く響いた。
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