葛藤-前編-
肉付き、黒髪の中でキラリと光る妖美で艶めいた髪だったっけか。
君の髪に巻かれても僕はいい。僕の首を君の香が流れる毛束で締め付けろよ。
『いかん!僕は何薄気味悪い事を考えてるんだ』
非常階段を下った直後のビル風に目を覚ませと促された。
そんな気がした。陽が出ていた時の風とは別の世界の様に、
コンクリートに囲まれた場所での夜風は冷たく寂しい。
そんなビジネス街を寂しげに歩く。
『人肌に触れるのはいつぶりだろう。』
考えながら左手を顎に運ばせ、伸びてきた髭を摩る。
僕がデリヘルで予約した女の子は、
去年まで高校に通学していた18歳のリンカちゃん。
雰囲気があの女子高生と似ていたからこの子に決めた。
朝バスの車内へ入った途端、
人を掻き分け僕の前に来たあの危険物取り扱い注意な子。
そうさ。香りは大麻なんてものじゃ弱すぎる。
覚醒剤?いいや違う。
電車内で予約し、突発的な衝動が身体中を駆け巡る。
その場凌ぎな感情でデリヘルを自宅へ呼んだと思っていた。
だが今では早く家に来ないかと待ち侘びながら電車を待つ僕がいた
___気持悪い。自分自身が分からず只々線路が引かれた道を走る人生さ。
同情されると深海へ沈んで逝く様な気分さ。
ゴボゴボと只々下へ沈み、身体中の酸素が次第に抜けていくのかな。
そして破裂。内臓が朱色の花火の様に飛び散る。
その段階へはいったことがないが、僕にとっては苦しいって位じゃ足りない。
全く余裕のない貧乏な心でごめんなさい。
だが神は、僕に心の拠り所となる対象人物にスポットを当ててくれた。
成人式から7年。笑顔で母さんに【写真家になる】と言った僕は大志を掲げ家から出た。
あの時の僕とは変わり…
9年と言う歳月を経て得たものは、平凡なエンジニアと言う称号。
そしてインターネットで名の知れたちょっとしたカメラマンだ。
前頭葉はとっくに大人脳になったって言うのに、こんなに気が弱くて、
優柔不断で自分自身をコントロール出来ないから、あんな若い女子高生に、
惑わされてしまうんだ。
『はっ…いかん何を考えていたんだ』
電車の緩やかなブレーキ音で気がついた。
どうやらネガテイブトランスに浸っていたらしい。
この電車も人を乗せて、
朝の5時から夜中の1時30分まで走りきって。また明日、明日と。
る為(働く為)にガソリンを注ぎ、
快適に事故なく運行し続ける為(乗せてる人の為)に十分な点検をして、
人を目的地に送り届ける為に電車も生きていく為に働き続けているんだ。
____今の僕は電車とは違う敷かれたレールだけど、上手く生きれているかな…
僕が決めることだよな。みんな僕よりも心が潤っている様に見えていて。
お洒落なオレンジライトで照らさた、
ムードが漂うレストランで可愛い女の子が喜ぶ会話を二人でして。
きっとコミニュケーションスキルも、
僕と違って高いから女の子も喜ぶだろうな。
お洒落に敏感な美容師とか、心に余裕のある医者とか女の子に困らなそうだ。
それに比べて僕は地味なエンジニアに、ちょっとしたカメラマン。
出会いの場や女心の扱いについては、前者に比べてゼロに等しい。
だが僕は僕なりに、やりたい事を休日にしながら定職につけている。
僕なら大丈夫さ。いいんだ。あの女子高生さえ手に入ればいいんだよ!!!!!!
『あっ…またしても僕は』
右手を重そうに目頭へと運び、親指と人差し指で揉み込み、頬を叩いた。
ナイーブな気持ちのまま電車へトボトボと車内へ乗り込む。
続
新たなフェチズムが開花し、どんな手段でも僕の物だけにするまでの過程。 @zyun_1022
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