第2話 行方

 「ただいま。」

 「「おかえり。」」

 2人の声が重なって俺のことを迎え入れる。

 リビングに行くとパソコンで会社の仕事をしているお父さんと、黙々と料理を作るお母さんがいた。

 2人は14年ぶりの再会だというのにずっと一緒にいたかのように振る舞っていた。きっとお互いにいつかまた会えると確信していたんだろう。

 「武瑠、ご飯できたからコップ出しといて。」

 「わかった。」

 「お、武瑠。お父さんのは出てるから出さないでいいぞ。」

 家族団欒、と言う言葉は今のような状況なんだろう。母がいて父がいて、勿論俺がいる、みんな同じ場所で同じ空気を吸っている。

 3人が夢にみた光景は今なんだ。

 食卓にはサラダと焼き鮭とご飯。

 そして普通の味噌汁があった。

 「「「いただきます。」」」

 味噌汁はお父さんの作る味でなれていたけど、お母さんが作る味噌汁の方が優しくて美味しい味がした。


 「ごちそうさまでした!じゃあもう寝るね。」

 そう言ってリビングを後にし、自分の部屋に戻った。

 まだ既読もつけていない圭悟のトーク画面を開く。最後の会話は1年前で止まっていた、と言っても会話ではなく一方的な言葉だった。

 『今日はありがとう、お陰で報われたよ』

 報われた、か。どうもそうは思えなかったけど。

 とりあえずなんて返信するべきか考えた、俺は今まで通りに圭悟と話せるかあやふやだったから。きっと目を合わせられないし、長い間話も続かない、これじゃ片想い中の中学生みたいじゃないか!

 まだ俺が圭悟のことを『親友』として見れていた時を思い出す、いつメンの4人で遊んでいた頃だ。仲が良かったけど喧嘩をすることが多々あった、あかねと揉めた時だ。俺は真っ先に圭悟に相談した、そのお陰で仲直りできた。

 そういえば俺は圭悟になにもしてあげれていなかったのかもしれない。


 『明日、あの喫茶店に3時集合』

 と、だけ返した。


 次の日、バイト終わりに駅前の喫茶店に行った。今の時間を確認しようと腕時計を見ようとすると背後から声がした。聞き覚えのある、あの声。

 「ごめん待たせた?」

 「いや全ぜ…」

 言葉を失う、確かに背後にいたのは圭悟。本人なんだが違う、知らないぞこんな人!俺の知ってる圭悟は少し猫背でだらしなく、髪も無造作に伸ばして雰囲気根暗なやつなのに、そこにいるのはしゃんとしてがちがちにセットされた短髪金髪野郎だ!

 「な、なあ。舐めるように見るなよ、まだ俺も慣れてないんだわこのスタイル。」


 チャリンチャリンと音を立てて入店する、息をするように「何名様ですか?」と聞かれたので指を2本立てた。

 席に着くととりあえずコーヒーを2杯頼んだ。

 客が俺たちだけではないのに店内に響くのはジャズだけ。

 先に沈黙に耐えられなくなったのは俺だ。

 「なんか、変わったな圭悟。」

 「訳ありだよ、ただの大学デビューじゃない。」

 「そうなの?てか大学行ってるんだ。」

 「大学はあかねと一緒だよ、俺があかねを見かけただけだから相手はまさか俺が同じ大学にいるなんて思ってないだろうな。学部も違うからこれからも会うことなんてないと思う。」

 それはびっくりだ、ほぼ毎日のようにあかねを迎えに行ってたのに合わないなんて。いや、圭悟は俺を見つけてたかもしれない、顔を合わせようとしなかっただけで。もし俺が見つけていても見なかったことにしたかもしれないが。

 「で、そのイメチェンは?好きな人ができた?」

 「違うよ、俺があの場にいたってネットで晒されたんだ。少年法で守られてるはずなのに、誰かが広めたんだよ顔写真と一緒に。」

 おちゃらけて聞いたのに重すぎる、不興を買った感すごい。

 「そうだ、武瑠。1年間いなかったんだもんな、相談する前にあの事件のこと話しとくよ。」

 そういって圭悟は机に少し身を乗り上げた。


 俺が宇宙にいた、空白の1年と3ヶ月の話だ。

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