第312話 聖剣は朽ちる

 カルナへ剣を向けるゼウシア。

 カルナは焦りを感じながらも、やや微笑する。


「ゼウシア、また乗っ取ってあげようか」


「無駄だ。それにあれは乗っ取られていたからとはいえ、俺の本心だ。ただ制御がきかなくなっただけだ。自分の気持ちを抑える気持ちが」


「ちっ。面倒だな」


「罪は消えねーよ。だから俺はその責任を負わなければいけない」


 ゼウシアは背後にイージスらが立っているのを見ることもなく、カルナへ視線を向けたまま振り返ることはない。

 イージスはゼウシアへ話しかけたいが、今はそれどころではない。


「ゼウシア、私とお前がいればこの世界を支配する魔王になれた。どうしてそれをーー」


「ラグナロクを起こして、俺は理解した。世界が望むのは魔法のない世界ではない。魔法がある世界、そして平和な世界。誰もが笑顔で暮らせるような、平和な世界。それをカルナ、お前は踏みにじった。だから俺はお前を倒さなくちゃいけない」


「英雄気取りか罪人がっ。だったらここで終わらせてやるよ」


 カルナの背中に存在する太陽は肥大化し、直径二メートルから徐々に膨張していく。


「不死の私は殺せないだろ」


「まあまあやめなよ。カルナくん」


 突如カルナの頭上から落ちてきた一人の男が、カルナの頭を掴んでそのまま床に叩きつけた。


「クロガネ、来ていたのか」


「ああ。お前をこんなにしたこいつには、責任を負わせなきゃいけない」


 クロガネ=ノース、彼の手を振り払い、カルナはクロガネを睨んだ。


「お前まで邪魔をするのか」


「クロガネだけじゃない。私もお前については探っていた。なぜか、それはお前が嫌いだからだ」


 そこへ降り立ったのは、アマツカミ学会会長のセイバー=アマツカミ。


「お前まで……」


「カルナ、お前は不死身だ。だから殺せない。だからこんな物を用意してみたんだが、気にいってくれるかな?」


 セイバーは腰に差していた剣を抜く。


「聖剣アマツカミ、これは不死すらも殺す、全ての魔法を殺す剣。これでお前を終わりにしてやる」


「待てセイバー」


 とどめを刺そうとしたセイバーの横へ立ち、ゼウシアは言った。


「この決着は俺がつけなくてはいけない」


 セイバーはその聖剣をゼウシアへ渡した。その剣を握り、ゼウシアはカルナへゆっくりと歩く。


「待てゼウシア、待て……」


「カルナ、俺はお前を殺す。それが俺の贖罪で、お前の贖罪だ」


「待てぇぇぇぇええええ」


「感謝してるよ。おかげで世界が何を望んでいるのかが分かった。本当にお前、強かったよ」


 カルナの心臓を聖剣は貫いた。


「まだ……俺は……」


「終わりだよ。もう全部終わりだ」


 苦しむカルナの首を、ゼウシアは斬り飛ばした。

 そこで初めてゼウシアは振り返った。後ろにいたイージスの方を。


「イージス、初めましてだな」


「父上……」


 父と子は向き合う。

 ーーこれが最後の物語。

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