第309話 カルナの企み

 アタナシアは悶々と語り始めた。


「私はアタナシア=アーティファクト。カルナ=サンの創ったアーティファクトシリーズのひとつ。アーティファクトシリーズの特徴としては、不死、つまり永遠の生命を有している」


「死なないということか」


「うん。アーティファクトは生命エネルギーを自身の体内でサイクルしているから死ぬことはない。だけど私は不完全体、失敗作だ。生命エネルギーは魂の中でサイクルをするも、その一部が毎回漏れている。私は君たちと同じだけの寿命しか生きられない」


「だから失敗作だと」


「それだけじゃない。私は根本的にスペックが劣っていた。魔力も、体術も、知能も全て。それから私は捨てられ、いろいろあって今に至るというわけだ。

 まあ、君たちが聞きたかったのはカルナの居場所だろ。そこにいるかは分からないが、カルナの研究所なら私は知っている。今もアーティファクトを創り続けているのなら、きっとカルナはそこにいる」


「案内してくれるか」


「……ああ。もう逃げない。私は過去と向き合う」


 アタナシアは覚悟を決め、イージスをカルナの研究所へ案内する。ノーレンスの転移魔法でそこへ飛んだ。

 そこは少し小さめの島だ。


「この島全体がカルナの研究所」


「おいお前ら、この島の何の用だ?」


 早速イージスたちの上陸に気付いたのか、一人の少年がイージスの前に立ち塞がる。


「オーズ、私だ」


 アタナシアはその少年の前に出て言った。

 アタナシアを見て、オーズと呼ばれた少年は軽く嘲笑するように微笑んだ。


「失敗作か。まさかカルナにでも会いたいのか」


「カルナに会わせて」


「随分と威勢が張れるようになったじゃないか。失敗作のくせに。案内してあげるけど、カルナが会ってくれるかは分からないよ。それでも良い?」


「ああ。構わない」


 アタナシアの動じない態度に、オーズが感心していた。


「君、変わったね」


 オーズはそう言い、アタナシアたちをカルナのもとへ案内した。

 あんないされた場所は謎の部屋。その部屋の前で待たされるイージスとアタナシアとノーレンス。


「カルナ、アタナシアが会いたいって」


 返答はない。

 まさかこのまま会えないのか。そう思っていると、静かに扉が開いた。そこからカルナが姿を見せる。


「本当に来たんだ。アタナシア」


「カルナ……」


 カルナを見て少し震えているようだった。


「で、話って」


「カルナ、ゼウシアを操ったアーティファクト、その正体を知っているか?」


「ああ。ウィルス=アーティファクトか。奴は私の創り出してきたアーティファクトの中でも特殊だからよく覚えているよ」


「どこにいる?」


「知りたい?」


「教えてくれ」


「ゼウシアが死んだ以上、世界が終わらないと分かった以上、ウィルスは用済みだったからね。居場所はこの島から最も近いクローバー島、殺すも生かすも好きにして良いよ」


 そう言うと、カルナは扉を閉めた。


「待て」


 アタナシアは扉を開こうとするも、開かない。

 扉を叩くアタナシアの横に立ち、ノーレンスは扉の向こうに聞こえるように言った。


「カルナ、お前は世界の反逆を企んだ大罪人だ。いつか処罰されるぞ。というより、今すぐ処罰する」


 それを聞くと、扉越しにカルナは言う。


「ノーレンス、君もいるのか。ならもっと詳しく言うとさ、私はただウィルスを創っただけ。ウィルスの行動は統べてウィルスが自分が思った通りに行動している。渡しはそれを利用しようとしていただけ。だけど結局利用する前にゼウシアという器は崩れ、ウィルスは逃げ惑っている。私は大罪人ではない。ただの罪人だ」


「そうかい。ならこの件に関してはいつか決着を着けるぞ。少なくとも、千年魔法教会が黙っていると思うな」


「はいはい。じゃあとっとと帰ってくれる。研究の邪魔だから」


 カルナが扉から遠ざかっていく足音が聞こえる。ノーレンスたちはひとまずウィルスがいるであろうクローバー島へ向かうこととなった。


「ここがクローバー島か」


「森だらけだな」


 クローバー島全域が森で囲まれていた。


「ここにウィルスがいるのか」


「ボクに何か用かい?」


 ウィルス、その名に反応し、一人の少年がイージスたちの前に現れた。

 彼の姿を見て、イージスたちは驚いた。

 右腕は黒焦げになっており、左腕は焼け落ちてなくなっている。全身のいたるところが黒く焼けている。火炎を扱うという点で真っ先に思いつくのはカルナだろう。


「ウィルス、その傷は……」


「アタナシア、ボクはさ……結局何もできないみたいだ……。そこの少年は……ボクを殺した張本人か。アタナシア、最後に全てを伝えておく。このラグナロクは……まだ終わっていない」


「どういうことだ」


「カルナが……」


 しかし意識が薄れていき、ウィルスは倒れた。


「ラグナロクがまだ終わっていない……どういうことだ……」


 その時、ノーレンスにはテレパシーである情報が伝わっていた。その情報を聞き、ノーレンスは動揺する。


「イージス、アタナシア……『鍵』であるルクスリアが何者かに拐われた。そして恐らく、カルナのいる島に……」


 その瞬間、カルナの研究施設がある島は輝き始めた。


「これはどういうことだ……。アーサー家もいないはずなのに」


「とにかく分かっていることは、ラグナロクが始まる」

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